11年後のレッドリスト|トゲネヤシ:静寂から呼び戻された、名もなき緑の記憶たち【IUCNレッドリスト比較】

11年後のレッドリスト|トゲネヤシ:静寂から呼び戻された、名もなき緑の記憶たち【IUCNレッドリスト比較】 11年後のレッドリスト
※このページは、[IUCNレッドリスト]世界の絶滅危惧生物図鑑(2014年版)に基づいて制作した個人ブログです。
※画像はすべてAI生成(
DALL·E)によるイメージであり、実際の生物写真ではありません。

こんにちは、鶏人|Keijin です。

トゲネヤシ(Cryosophila williamsii)は、

2014年、図鑑に【EW:野生絶滅】として分類されていました。

2021年、IUCNレッドリストで、【CR:深刻な危機】と評価されました。

つまり、2014年から2021年にかけて、トゲネヤシは

「静寂から呼び戻された、名もなき緑の記憶たち」状態になりました。

※2025年時点で、IUCNレッドリストにおけるトゲネヤシの最新評価は2021年版です。それ以降の更新は行われていません。

この記事は、とても短く5分で読めるので、どうぞ最後まで読んでいただけると嬉しいです。

※本記事は専門家による学術的な評価ではなく、公開された資料に基づく個人の調査・見解を含んでいます。
最新かつ正確な分類や保全状況については、IUCN公式サイトなどをご確認ください。
参考:https://www.iucnredlist.org/species/30366/142381423

保護区に残されたトゲネヤシと、私たちがつくる『見えない柵』

⬇︎トゲネヤシの生態です。必要に応じてご覧ください。⬇︎

基本情報|トゲネヤシ(Lago Yojoa Palm)
項目情報
和名トゲネヤシ
英名Lago Yojoa Palm / Root-spine Palm
学名Cryosophila williamsii P.H.Allen
分類被子植物・ヤシ科(Arecaceae)・トゲネヤシ属(Cryosophila
分布中米・ホンジュラス西中部、ラゴ・ヨホア(Lago Yojoa)流域のごく限られた地域にのみ自生する固有種
主な自生環境高雨量の低地〜山麓の常緑雨林内、石灰岩(カルスト)の急斜面(標高約600〜700m)
樹高およそ3〜7m(最大で約7m=20〜23フィートの中型のヤシ)
幹の特徴直径約7〜10cmの細い単幹で、下部が白っぽいトゲ状の根(root spines)にびっしり覆われる
葉の特徴大きな扇形(コスタパルメート)の葉。表は濃緑色、裏面は銀白色で、17〜25枚ほどの葉が茂る
寿命正確なデータは少ないが、条件が良ければ数十年以上生きる長寿のヤシと考えられている(同規模のヤシ類にならう推定)
保全状況IUCNレッドリストではCR(Critically Endangered:深刻な危機)。野生の成木は約200〜270個体と推定される(2021年評価)

特徴

  • 名前の由来:
    幹の下部に、白く分岐したトゲ状の根(root spines)がびっしり生えることから、英名で「Root-spine Palm」、日本語で「トゲネヤシ」と呼ばれます。
  • 銀色に光る葉:
    直径1.5mほどの大きな扇形の葉をつけ、表は濃い緑色ですが、裏面は銀白色。風に揺れると、裏側がきらりと光ってとても目立ちます。
  • ほっそりした中型ヤシ:
    すらりとした単幹で、高さは7mほどまで成長する中型サイズ。細い幹の下半分をトゲ根が覆い、まるで毛布や麻布を巻いたような独特の姿になります。
  • しっとりした森を好む:
    石灰岩の急斜面にしみ込んだ水と、高い湿度に守られた、涼しい常緑雨林の林床〜林縁を好みます。乾燥や冷え込みには弱く、熱帯〜亜熱帯の湿潤な環境向けのヤシです。
  • 人と利用の歴史:
    かつては葉が屋根材(かやぶき)として、幹の先端の「ハート・オブ・パーム(芽)」が薬用を兼ねた食材として利用されてきましたが、あまりに個体数が減ったため、今ではほとんど使えないほど稀少になっています。

生態と行動(暮らし方)

  • 生息場所:
    ラゴ・ヨホア流域の、雨の多い常緑雨林の林床〜斜面に生育します。石灰岩の急斜面に根を張り、湿った日陰でゆっくり成長するヤシです。
  • 光と水の好き嫌い:
    強い直射日光よりも、上層の高木に遮られた半日陰を好みます。土壌は水はけが良いものの、常にしっとり湿っている状態が理想で、乾燥には弱いとされています。
  • 再生と更新:
    白っぽい小さな果実をつけ、種子は地面に落ちたり、動物に食べられて運ばれたりしながら散布されると考えられています。ただし詳しい送粉者・種子散布者はまだよく分かっていません。
  • 実生の弱さ:
    実生の苗は「湿った日陰」がないと生き残れず、森林伐採で林床が日なたになると、乾燥と直射日光で枯れてしまいます。そのため、一度森が切り開かれると次の世代が育ちにくいという弱点があります。
  • 人間活動との関係:
    農地拡大や定住・伐採による森林破壊に加え、屋根材やハート・オブ・パームとしての採取が重なり、個体数は急激に減少しました。現在は、ホンジュラスのラゴ・ヨホア流域の林残地と、アメリカ・フロリダの植物園などの「域外保全」が、このヤシを未来へつなぐ鍵になっています。

2014年絶滅危惧種:トゲネヤシ【EW:野生絶滅】

ヨホア湖の流域は森林保護地に指定されているが、それでも森林の破壊は止まらない。本当にこのヤシが野生状態で絶滅したのかどうかの調査が必要であるし、もし生存株が残っているのなら緊急に保全措置がとられるべきである。

出典:訳者 岩槻邦男,太田英利 / 発行者 池田和博 / タイトル「IUCNレッドリスト世界の絶滅危惧生物図鑑」/発行所 丸善出版株式会社 / 発行 2014/01/31 ©️Kunio Iwatsuki, Hidetoshi Ota, 2014

項目内容
かつての評価EW:野生絶滅 とされていた
評価の根拠(過去)ヨホア湖周辺の生息地が農地拡大などで破壊され、長い間野生個体が確認されなかったため
図鑑の位置づけ図鑑の記述は、この「野生ではすでに絶滅した可能性が高い」という時点の情報に基づいている
現在の評価CR:深刻な危機(2021年評価)
ステータス変更の理由その後の現地調査で、ヨホア湖周辺の「非常に急な斜面(アクセス困難な場所)」に残存個体群が再発見されたため
生き延びた要因人間が立ち入りにくい険しい地形だったことが幸いし、開発や伐採を免れてひっそりと生き延びていた
評価更新の意味「野生にはもういない(EW)」から「野生にいるが絶滅リスクが極めて高い(CR)」へと見直された

2. 現在の状況とおもな脅威

項目内容
推定個体数成熟した個体数は 100〜250本未満 と推定される(非常に少ない)
生息地ホンジュラス・ヨホア湖(Lake Yojoa)周辺のごく限られたエリア
分布範囲約 8km² 程度 の範囲に点在
森林伐採・農地転換コーヒープランテーションや放牧地への転換が最大の脅威
人為的利用葉が屋根葺きに、幹が建設資材として利用されることがある
生息地の孤立化生息地が分断され、遺伝的多様性の維持や健全な繁殖が難しくなっている
全体評価再発見されたものの、個体数・分布ともに極めて制限され、依然として予断を許さない状態

3. 保全措置の現状

項目内容
図鑑の提言「もし生存株が残っているのなら、緊急に保全措置がとられるべき」とされていた
生息域外保全(Ex situ)フェアチャイルド熱帯植物園(Fairchild Tropical Botanic Garden)などが中心となり、種子保存や栽培下での繁殖を実施
生息域外保全の役割万が一、野生個体群が絶滅した場合の「保険」として機能
現地での保護(In situ)ヨホア湖周辺は保護区に指定されている
保護区の課題規制の強制力が弱く、違法伐採などを完全に防ぐには至っていない
今後必要なこと現地住民への啓蒙活動の強化と、より厳格な生息地保護・管理体制の整備

トゲネヤシ(Cryosophila williamsii)は、生息地の農地転換により野生個体が長らく確認されず、IUCNで野生絶滅(EW)と評価されていたが、ヨホア湖周辺の急峻な斜面で小規模な残存個体群が再発見され、2021年評価では深刻な危機(CR)へ再分類された。

成熟個体数は推定100〜250本未満、分布も約8km²に限られ、森林伐採や人為的利用、生息地分断の影響を受けるため、植物園での生息域外保全と保護区管理の実効性向上が重要である。

⬇︎トゲネヤシの主な保護活動の種類です。必要に応じてご覧ください。⬇︎

保護活動の種類内容の概要
自生地森林の保護主な自生地であるホンジュラス・ヨホア湖流域は「森林保護区」に指定され、違法伐採や農地拡大を抑えるためのゾーニングと管理が行われている。
生息地の再調査・保全優先区の特定かつて「野外絶滅」とされた経緯があり、現在もヨホア湖周辺やコパン周辺での再調査がすすめられ、残存個体や小さな集団を確認・記録し、優先的に保全すべき区画が絞り込まれている。
資源利用の規制・代替資源の導入かつては葉の茅葺き利用や「ハーツ・オブ・パーム(芽の食用)」として過剰利用されていたため、その採取を制限し、代わりに成長の早い他種ヤシ(例:ロイストネア・レギア)を推奨することで、トゲネヤシへの利用圧を下げる取り組みが提案・実践されている。
ex situ 保全(植物園コレクション)フェアチャイルド熱帯植物園(米国マイアミ)などの植物園では、1994年に採集した種子から栽培個体群を維持し、遺伝資源の保存と将来の増殖を行っている。
再導入・復元計画植物園で開花・結実が安定すれば、手粉媒なども活用しながら種子を増やし、ヨホア湖流域など元の生息地への再導入や、中央アメリカの他の植物園・保護区への導入が検討されている。
研究とモニタリング個体数・更新状況・利用状況に関するフィールド調査、森林タイプごとの出現状況の記載、IUCN レッドリスト評価(CR / EW とされた履歴)など、学術的な研究とレッドリスト更新のための情報収集が行われている。
地域社会への普及啓発トゲネヤシ(パルミチェ/モハリーヤ)が「絶滅の危機にある固有種」であることや、過去に野外絶滅とされていたことを伝えるパンフレットや記事を通じて、地域住民に過剰伐採を控え、保護の必要性を伝える活動が紹介されている。

最後に

ここまで読んで、どんなふうに感じましたか?

ヨホア湖のまわりの急な斜面で見つかったってあるけれど、現地では柵で囲ったりして守っているんでしょうか。

保護区って、なんとなくそういうイメージがありますよね。

このあたりのこと、もう少し詳しく調べてみます。


1. 「保護区」と聞いたときのイメージと現実

項目内容
一般的なイメージ「保護区で見つかった」と聞くと、日本人は「柵で囲まれた管理区域」や「レンジャーが見回っている国立公園」のような、安全な場所を思い浮かべがち。
実際に調べてみて見えたもの詳しく調べると、現地の状況は、私たちがイメージする「保護」とはかなりかけ離れた、もっと厳しい現実だった。
この記事のねらい調べた事実に基づき、その「ギャップ」について詳しく解説する。

2. 「柵」はあるのか?

項目内容
結論物理的な柵は存在しない。
生育地の特徴ヨホア湖周辺の「断崖に近い急斜面」。人間が立って歩くのさえ困難な険しい石灰岩の岩場に、へばりつくように生えている。
柵がない理由地形があまりにも急峻で危険なため、そもそも物理的に柵を作ることができない。
「天然の要塞」人間が近づけないほどの悪条件こそが、唯一にして最大の防御壁(柵の代わり)になっていた。
失われた場所との対比平坦な場所はすでに農地(コーヒー畑など)に変えられており、機械も入れず足場も悪いこの斜面だけが開発の手から逃れた。

3. 「保護区」の実態(ペーパーパークの側面)

項目内容
法的な位置づけヨホア湖周辺は、「ヨホア湖多目的利用保護区」などに指定されている。
多目的利用の意味「多目的利用」という名前の通り、完全な立ち入り禁止区域ではなく、地域住民が農業を営んだり、資源を利用したりすることが認められているエリアを含む。
管理の限界広大なエリアに対してレンジャーの数が圧倒的に足りず、違法伐採や無秩序な開発を常時監視・抑止することは非常に困難。
実際の保護活動柵で囲う代わりに、「Guardians of the Lake(湖の守護者)」と呼ばれる地元のボランティア団体やNGOが啓蒙活動やモニタリングを行っている。
強制力の問題これらの活動は重要だが、法的・物理的な強制力には限界があり、「守る」体制としては不十分な側面がある。

4. まだ残る「盗掘」のリスクとまとめ

項目内容
柵がないことのリスク柵がないため、現在も盗掘や利用圧のリスクにさらされている。
建材としての利用現地では伝統的に、このヤシの幹が家の建材として、葉が屋根材として利用されてきた。
パルミット利用ヤシの成長点にある柔らかい部分(パルミット)は食用となるが、ここを採るとヤシは枯死する。それでも、貧しい地域では食料や収入源として狙われることがある。
実態に近い理解「守られていた」というより、「人間が見捨てた(利用しにくい)場所だったから、たまたま生き残れた」と言うほうが事実に近い。
ニュースとその裏側「野生絶滅からの復活」という明るいニュースの裏側には、「崖っぷちに逃げ込んだ最後の生き残り」という、ギリギリの光景が広がっている。

トゲネヤシ(Cryosophila williamsii)の生育地であるホンジュラス・ヨホア湖周辺は、法的には保護区だが多目的利用が認められ、レンジャーや柵による厳格な管理は十分ではない。

断崖状の急斜面という到達困難な地形が「天然の防波堤」として機能してきた一方、建材や食用パルミットとしての利用や盗掘リスクは残存し、「保護」という名称と現場の脆弱な実態とのギャップが確認される。


なるほど〜、だいぶ見えてきました。
結局のところ、トゲネヤシが生き残れたのは「現地の人ですら近づきたくないような急斜面だったから」という側面が大きいんですね。
保護区とはいえ、そこに柵があって監視員が常に立っているわけではないので、「本気で入ろうと思えば、人は入り込めてしまう場所」ってことなんだ。

だからこそ、物理的な柵ではなく、現地の人の意識の中に“見えない柵”をつくることが必要なのかもしれません。

私たちも「これはダメ」「ここには触ってはいけない」と小さい頃から言われて育つと、大人になっても自然と近づかなくなりますよね。

逆に、子どもの頃から「このヤシの葉っぱは屋根に使える」「芯の柔らかいところは食べられる」とだけ教わっていたら、たとえ絶滅寸前の種でも、生活のために使ってしまうかもしれません。

だからこそ、トゲネヤシのことを、現地の人たちにもっと知ってもらう――。

そのことを知ればきっと、
「今まで私たちの暮らしを支えてくれたヤシが、今は困っているんだ。じゃあ、これからは感謝を込めて私たちが守っていかなきゃ」と思えるような、そんな“見えない柵”が心の中に生まれてくるんだと思います。


ここまで読んで、『あなた』は、どのように感じましたか?

コメントで意見を聞かせてくれると、とても嬉しいです。

あなたの貴重な5分間を、本当にありがとうございました。

トゲネヤシに、あなたの5分が届くことを祈ります。

鶏人|Keijin

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