11年後のレッドリスト|ソコトライトトンボ(Azuragrion granti):小川が細るたび、青い命も孤立する【IUCNレッドリスト比較】

11年後のレッドリスト|ソコトライトトンボ(Azuragrion granti):小川が細るたび、青い命も孤立する【IUCNレッドリスト比較】 11年後のレッドリスト
※このページは、[IUCNレッドリスト]世界の絶滅危惧生物図鑑(2014年版)に基づいて制作した個人ブログです。

Hello, I’m 鶏人|Keijin.

In the 2014 reference book, the Socotra Bluet (Azuragrion granti) was classified as Least Concern (LC) because it was considered relatively common in suitable habitats, including streams in the Haghier Mountains.

Since 2022, the IUCN SSC Freshwater Conservation Committee and other organizations have been conducting distribution surveys of the island’s endemic freshwater species, including the Socotra Bluet. They have also carried out outreach activities with local communities and schools and compiled information for a future IUCN reassessment. However, no legal protection or recovery plan specifically dedicated to this species has yet been confirmed.

According to the latest IUCN Red List assessment available as of 2026, the species is confined to a limited number of freshwater habitats in the eastern half of the island. Because both its geographic range and occupied habitat are restricted, and because its habitats are either fragmented or found at only a small number of locations, its status was changed to Near Threatened (NT) in 2017.

Even now, I believe the Socotra Bluet remains in a place where “each time a stream dwindles, another blue life is left isolated.”

I’ve placed the more detailed information inside the expandable sections.

For now, I’d be grateful if you would read just the main story through to the end.

こんにちは、鶏人|Keijinです。

ソコトライトトンボ(Azuragrion granti)は、2014年の図鑑では、ハジヒル山地の小川など、適した生息地では比較的普通に見られていたことなどから「LC:低懸念」と評価されていました。

近年は、2022年以降、IUCN淡水保全委員会などによって、本種を含む固有淡水生物の分布調査、地域住民や学校への普及活動、IUCN再評価に向けた情報整理が進められています。ただし、本種だけを対象とした法的保護や回復計画は、現在も確認されていません。

そして、2026年時点で確認できるIUCNレッドリストでは、島東半分の限られた淡水域にしか分布せず、分布範囲と生息面積が狭いうえ、生息地が分断されている、または生息地点数が少ないことから「NT:準絶滅危惧」へ、2017年に評価が変更されました。

ソコトライトトンボは今も、「小川が細るたび、青い命も孤立する」という状態なのだと思います。

少し詳しい内容は折りたたみの中にまとめています。
まずは本文だけでも、最後まで読んでもらえたらうれしいです。

※2026年時点で、IUCNレッドリストにおける最新評価は2017年評価(2018年公開)です(以降の更新は、現時点では確認できていません)。
※本記事は専門家による学術的な評価ではなく、公開された資料に基づく個人の調査・見解を含みます
※IUCN評価は「世界全体」と「地域・個体群」で分かれる場合があります。地域によって状況は異なります。
最新かつ正確な分類や保全状況については、IUCN公式サイトなどをご確認ください。
参考:IUCN Red List(学名:Azuragrion granti

ソコトライトトンボはLCからNTへ|2014年と2026年のIUCNレッドリスト比較

⬇︎ソコトライトトンボの生態(基本情報)です。必要なら開いてください。

基本情報|ソコトライトトンボ(英名:Socotra Bluet)
項目基本情報
和名ソコトライトトンボ。2014年の図鑑で採用されている和名である。国内の昆虫目録などで広く定着した標準和名は確認されておらず、ソコトラ島のイトトンボという意味の名称である
英名Socotra Bluet。Grant’s Bluetとも呼ばれる。Bluetは、青い体色をもつイトトンボ科の一群に使われる英名である
学名Azuragrion granti
学名の読みアズラグリオン・グランティ
命名者・記載年Robert McLachlan、1903年。現在の表記は Azuragrion granti (McLachlan, 1903) で、命名者名が括弧で囲まれるのは、記載後に属が変更されたことを示す
原記載名Ischnura granti McLachlan, 1903。のちに Enallagma 属として扱われ、2002年の分類学的再検討によって Azuragrion 属へ移された
属名の由来Azuragrionは、同属の多くのオスが示す鮮やかな空色に由来する。azureは青色、agrionはイトトンボ類に古くから使われてきた名称である
種小名の由来grantiは、1898~1899年のソコトラ島・アブド・アル・クリ島調査を共同で率いたスコットランドの鳥類学者William Robert Ogilvie-Grantにちなむ
分類動物界、節足動物門、昆虫綱、トンボ目、イトトンボ亜目、イトトンボ科、Azuragrion属
分類上の特徴Azuragrion属は、オスの腹部末端付属器、生殖器、胸部斑紋などによって、近縁のEnallagma属などから区別される。本種は体の大きさや形態が同属のほかの種とやや異なるとされる
体の大きさAzuragrion属には非常に小さな種から比較的大きな種まで含まれ、本種は同属のなかでは大型側に位置づけられる。主要な新しい分布研究には正確な全長測定値が示されていない
オスの体色全体的に鮮やかな空色と黒色からなる。頭部上面は黒く、胸部には空色の部分と途切れない黒い肩条があり、腹部第3~第6節の背面はおもに暗色となる
メスの体色オスより目立たない淡い青緑色から褐色系の体色を示す。オスと同様に細長い腹部と透明な翅をもつ
翅の特徴翅は細長く透明で、縁紋は灰色から褐色。休息時には一般的なイトトンボと同じように、翅を腹部の上で閉じるように保持する
世界的な分布イエメン領ソコトラ諸島のソコトラ本島だけに分布する固有種。周辺のサムハ島、ダルサ島、アブド・アル・クリ島からは確認されていない
ソコトラ島内の分布本島東半分、とくにハジヒル山地と、そこから海岸方向へ延びる深い谷やワジに分布する。島西部の石灰岩地帯では、利用できる開放淡水域が少なく確認されていない
おもな確認地点ワジ・アイハフト、ワジ・ズィレグ、ディルフル、ディネガン、ホムヒルなど。北東部のワジ・ダムルでは、ナツメヤシ農園内を流れる浅く小さな渓流からも確認された
標高海面付近から標高1,200メートルまで記録されているが、おもな分布は標高300メートル以上。山地から続く谷筋に沿って、例外的に海岸低地まで下る
中心的な生息環境山地の恒久的な流水、清澄な渓流、ワジに形成された透明度の高い深い淵。ソコトラ島東部の山地は年間を通じて淡水が残る湿潤な避難地となっている
流れの好み流れの遅い水域でも見られるが、比較的流れの速い清澄な淡水を好む。ソコトラ島のトンボ類のなかでも、恒久的な流水環境との結びつきが強い
周辺環境岸辺に植生があり、風や直射日光から守られた場所で多く確認される。岩が露出した場所と植物のある岸辺の両方を利用する
塩分への耐性淡水だけから確認され、汽水域には生息しない。海岸近くまで分布する場合も、利用するのは山地から流れ下る淡水である
幼虫の生息場所幼虫は清澄な流水の水中に沈んだ岩や、大きく透明なワジの淵にある岩上で確認される。適した場所では幼虫が多数見つかる
成虫の行動岩や岸辺の植物に止まることが多い。飛翔力は強くなく、ゆっくり飛ぶため、生息地から遠く離れた水系へ移動する能力は高くないと考えられる
繁殖行動オスとメスが連結したタンデム状態で頻繁に観察され、ときには連結したまま水中に入る。産卵場所や卵・幼虫期間など、生活史の詳しい日数は解明されていない
食性本種だけを対象とした詳しい食性研究は確認されていない。イトトンボ類の成虫は小型の飛翔昆虫を捕食し、幼虫は水中の小型無脊椎動物を捕らえる捕食者である
捕食者ショウジョウトンボ属のCrocothemis erythraeaや、シオカラトンボ属のOrthetrum sabinaが成虫を捕食する様子が確認されている。飛翔が遅く、局地的に多いため、ほかのトンボ類に捕食されやすい
共存する固有種ソコトラ島固有の淡水ガニSocotrapotamon socotrensisと同じ清澄な流水やワジの淵で頻繁に確認される
生態系での役割幼虫・成虫ともに捕食者として水生昆虫や小型昆虫の個体数に関わる一方、大型トンボなどの餌にもなる。水域と陸上をつなぐ食物網の一部を担う
環境指標としての役割汚染が少なく水量が保たれた流水環境を示す指標種とされる。本種の消失や減少は、取水、汚染、岸辺植生の減少などによる水域環境の変化を示す可能性がある
生物地理学的な位置づけソコトラ島で進化した唯一の固有トンボであり、アラビア半島固有のトンボ類7分類群のひとつ。体の大きさと形態が同属のほかの種と異なることから、ソコトラ島に残された古い淡水動物相の遺存種である可能性が指摘されている
近縁関係Azuragrion属の近縁種はアフリカを中心に分布する。ソコトラ島には広域分布種のAzuragrion nigridorsumも生息するが、本種はより山地の清澄な流水と結びつきが強い
記録数2020年の研究では、1896~2019年に得られたソコトラ諸島のトンボ類841件の記録のうち、本種は69件で全体の約8%を占めた
生息密度島全体に広く分布する種ではないが、条件の整った渓流やワジでは成虫・幼虫とも局地的に多い
IUCNレッドリスト準絶滅危惧(NT)。評価基準はB1a+B2a。最新評価日は2017年11月1日で、2018年に公開された
個体群動向IUCNでは安定とされているが、成熟個体数の推定値は示されていない。山地では現在も局地的に多い一方、北部低地では歴史的な生息地点からの消失が確認されている
研究状況分布と生息環境については2019年までの記録が整理されているが、寿命、発育期間、産卵数、食性、季節ごとの個体数変動、高温や乾燥への耐性などは十分に解明されていない

出典

最終評価2017年:ソコトライトトンボ「NT:準絶滅危惧」

ソコトライトトンボ(Azuragrion granti)|2026年時点の現状まとめ
出典:IUCNレッドリスト|ソコトライトトンボ(Azuragrion granti

2026年8月27日時点で、IUCNに掲載されている最新の種別評価は2017年11月1日に実施され、2018年に公開されたものです。したがって、表の「現在」は、このIUCN評価に2019年までの分布記録を解析した2020年の研究と、2025~2026年のソコトラ島の環境情報を加えて整理しています。

項目2014年の図鑑現在(2026年確認)
和名ソコトライトトンボソコトライトトンボ。本記事では図鑑の名称を継続して使用する
英名Socotra BluetSocotra Bluet、Grant’s Bluet
学名Azuragrion grantiAzuragrion granti。学名に変更は確認されていない
IUCNレッドリスト低懸念(LC)準絶滅危惧(NT)。2017年11月1日に評価され、2018年に公開された。図鑑が予測していたLCからNTへの引き上げが実際に行われた
評価基準近く再評価され、準絶滅危惧へ引き上げられる可能性があるとされたB1a+B2a。分布範囲と生息面積が限られ、生息地が分断されている、または生息地点数が少ないことを根拠とする。絶滅危惧種の基準には達していないが、それに近い状態として評価されている
最新評価の時期当時のLC評価に基づく最新のIUCN評価は2017年のもので、2026年に新たな種別評価が行われたわけではない。IUCN上では現在もNTとして掲載されている
固有性イエメンのソコトラ島だけで発見されている固有種ソコトラ諸島のうち、ソコトラ本島だけに分布する唯一の固有トンボ。周辺のアブド・アル・クリ島、サムハ島、ダルサ島からは確認されていない
主な分布域ソコトラ島東部、とくにハジヒル山地がおもな生息地本島東半分に限られる。ハジヒル山地と、そこから海岸方向へ延びるワジと呼ばれる谷筋がおもな分布域。西部の石灰岩地帯では、開放された淡水環境が乏しく確認されていない
分布規模非常に限られた地域にしか生息しないとされた2017年のIUCN評価では25件、18地点の記録に基づき、分布域面積は約550平方キロメートルとされた。2020年の研究では1896~2019年の69件の記録が整理され、既知の生息範囲は約800平方キロメートルと推定された。両者は記録数と算定方法が異なるため、面積の増加を意味するものではない
標高おもに山地の小川に沿って発見される標高0~1,200メートルで記録されているが、多くは標高300メートル以上。山地から流れ下る深い谷に沿って、一部は海面近くまで分布する
生息環境山地の小川。ハジヒル山地に適した生息環境が多いと考えられていた清澄な流水、恒久的な山地渓流、ワジに残る透明度の高い深い淵を利用する。緩やかな流れでも見られるが、比較的流れの速い水域を好む。汽水域からは確認されていない
幼虫の生息場所詳しい記載はない幼虫は清澄な流水や大きなワジの淵にある水中の岩上で多く確認される。このため、水量だけでなく水質、流速、堆積物、河床の状態にも影響される
生息地の指標性比較的普通に見られる種とされた汚染の少ない良好な流水環境を示す指標種と位置づけられている。水質や流れが保たれた場所では現在も局地的に多い
個体数比較的普通に見られるとされたが、具体的な個体数は示されていない成熟個体数の推定値は示されていない。IUCNでは個体群動向を「安定」としているが、これは島内のすべての地域で安定しているという意味ではない
確認された地域的減少将来、人間活動の積み重ねが脅威になると予測されていた北部低地の複数地点から姿を消した。1950年代に記録されたハディボ平原、ワジ・マネフォ、マアーバド周辺では、1956年以降の確実な記録が確認されていない
分布域の縮小将来の乾燥化によって、急速に絶滅へ追いやられる可能性が指摘されていた2020年の研究では、ハディボ平原とマアーバド周辺からの消失により、歴史的な生息範囲から約100平方キロメートル縮小した可能性が示された。一方、山地や東部の良好な流水では現在も確認されている
おもな人為的脅威人口と旅行者の増加により沿岸部で水需要が高まり、水資源の利用が増えると予測された取水、河川・渓流の分断、道路建設、都市化、岸辺の植生除去、生活排水やごみによる汚染、農業用殺虫剤、蚊の防除に使われる薬剤が脅威となる。2019年にはハディボ周辺の潟湖などで航空機による殺虫剤散布も確認された
水資源の利用将来的な脅威として記載されていた人口増加と観光による水需要は現実の問題になっている。恒久的な渓流からの取水や無秩序な井戸掘削が水生環境を変化させており、ソコトラ島の水管理はIUCNの2025年評価で「高い脅威」とされた
生息地の保護具体的な保護状況の記載はない2020年の研究では、表流水と岸辺の植生を対象にした十分な管理計画がなく、トンボ類の多様性が高い水域の一部も保護区域に含まれていないと報告された。保全区分や管理計画の更新は進められているが、本種だけを対象にした保全事業は確認されていない
2014年に予測された気候変動の影響降水量が減少しソコトラ島の気候がさらに乾燥すれば、非常に限られた水域に依存する本種は急速に絶滅へ近づくと予測された予測されていた乾燥化が現実の危険として現れている。FAOによると、ソコトラ島では2023年以降、ほとんど雨や洪水が発生しない異例の干ばつが続き、2026年には水源の減少が報告された
干ばつによる影響将来起こり得る脅威恒久的な流水や深い淵が縮小・消失すると、幼虫が成長できる期間と場所が減少する。2023年以降の干ばつが本種の個体数をどれだけ減らしたかを直接測定した調査は確認されていないが、恒久的流水に依存する生態から、生息地への影響は大きいと考えられる
気温上昇による影響具体的な気温予測は記載されていないIUCNの2025年評価が引用する2024年の気候・侵食調査では、2100年までにソコトラ島の気温が約2.5℃上昇する予測が示された。気温上昇は蒸発散量と水温を高め、小規模な渓流や淵の乾燥を早める可能性がある。本種の高温耐性を直接調べた研究は確認されていない
降水量の変化降水量の減少を中心に危険性が説明されていた将来予測には年平均降水量の増加を示すモデルもあるが、雨が均等に増えるとは限らない。長い無降水期間と集中豪雨が組み合わされれば、恒久的な流水の維持にはつながらず、干ばつと洪水の両方が強まる可能性がある
サイクロンと集中豪雨記載なし2015年のチャパラとメグ、2018年のメクヌなど、強いサイクロンがソコトラ島を襲った。洪水による河床の攪乱、幼虫や卵の流失、土砂流入、岸辺植生の破壊、水質悪化が起こり得る。島のように分布が限られたトンボでは、一度の極端現象が複数の生息地点を同時に損なう危険がある
気候変動と取水の複合影響乾燥化と水利用の増加が重なれば絶滅へ近づくと予測された干ばつで自然の水量が減るほど、住民・農業・観光による同じ水源への依存が高まる。本種は飛翔力が強くなく、島外や離れた水系への移動も難しいため、渓流の乾燥と取水が重なると生息地間の分断が進みやすい
現在の総合状態LCではあるが、近い将来NTへ悪化し、乾燥化すれば急速に絶滅へ近づく可能性がある実際にLCからNTへ悪化した。山地の良好な流水では局地的に多く、ただちに絶滅寸前という状態ではないが、北部低地ではすでに地域消失が起きている。さらに2023年以降の長期干ばつ、水源の減少、取水、汚染、開発が重なり、2017年のIUCN評価時より生息環境への圧力は強まっている

出典

ソコトライトトンボは、2014年の低懸念(LC)から準絶滅危惧(NT)へ悪化した。ソコトラ本島東部の清澄な渓流やワジの淵に限って生息し、良好な水域では今も局地的に多い一方、北部低地では複数の生息地から姿を消し、歴史的な分布域が約100平方キロメートル縮小した可能性がある。取水、都市化、道路建設、汚染、殺虫剤などに加え、2023年以降の深刻な干ばつで島の水源そのものが減少している。温暖化による蒸発量の増加や渓流の乾燥、集中豪雨による河床の攪乱も懸念される。山地の流水が残る限り生き延びられるものの、その限られた水を人間と奪い合う状態が続けば、さらに絶滅へ近づくおそれがある。

⬇︎ソコトライトトンボの保護活動の種類です。必要なら開いてください。

保全活動の種類実施内容実施主体・時期本種との関係・進捗
種単独の保全状況ソコトライトトンボだけを対象とした法的保護、回復計画、飼育繁殖、移殖事業は設けられていない。現在の保全は、ソコトラ島の湿地・流水・世界自然遺産全体を守る活動のなかで進められているイエメン環境保護庁、IUCN、UNEP、GEF、地域団体など2022年以降は、本種を調査・普及活動の対象に含む淡水生物保全事業が実施され、従来より直接的な取り組みへ進展した
IUCN湿地保全プロジェクトソコトラ島の湿地と淡水生物の保全に特化した小規模事業。地域住民、行政、学校、大学、環境団体を結び、現地調査、普及活動、保全計画に必要な情報収集を行ったIUCN種の保存委員会・淡水保全委員会。2022年10月開始ソコトラ諸島の保全活動で、湿地保全だけに焦点を当てた最初の事業とされる。本種は固有の淡水生物を代表する対象種のひとつに選ばれた
分布調査ワジ、渓流、湿地を訪れ、固有淡水生物の分布、生息地の状態、汚染や開発などの脅威を調査したIUCN淡水保全委員会、現地研究者、イエメン環境保護庁、地域団体。2022~2023年ソコトライトトンボと固有淡水ガニが重点的な調査対象となった。古い記録地点での再確認と、新しい分布情報の収集が進められた
IUCN再評価の準備現地調査で得られた分布地点、確認状況、生息地の変化、脅威などを整理し、IUCNレッドリスト評価の更新に利用するIUCN淡水保全委員会とGlobal Center for Species Survival現在公開されている本種の評価は2017年実施のままであり、2022~2023年の調査結果を反映した新しい評価は2026年8月時点で公開されていない
長期記録の集約文献、博物館標本、未公表の現地調査を統合し、1896~2019年に記録されたソコトラ諸島のトンボ類841件を整理した国際研究チーム。2020年公開本種について69件の記録が整理され、現在の分布、過去の生息地点、地域消失を比較する基礎資料となった
分布データベースの公開トンボ類の確認地点を地理情報データベース化し、オンライン地図と現地調査用の仕組みを整備したソコトラ・トンボ類アトラス研究チーム生息地点の再調査、開発計画との位置関係の確認、将来の減少地点の検出に利用できる。保全判断を経験的な情報だけに頼らないための基盤となる
生息地の変化の監視古い採集記録と近年の調査記録を比較し、ハディボ平原など人間活動の強い地域でトンボ類の種数が減少していることを明らかにしたソコトラ・トンボ類アトラス研究チーム本種が北部低地の複数地点から消失したことが示され、山地の恒久的流水を優先して監視する必要性が明確になった
指標種・象徴種としての活用ソコトライトトンボを、清浄な淡水環境を象徴する種として紹介し、渓流やワジを保全する重要性を住民や行政へ伝えるIUCN淡水保全委員会、Friends of Socotra、研究者、現地環境団体本種を守る活動を、飲料水や農業用水を支える淡水環境全体の保全と結びつけている
地域住民との保全協議地域住民、漁業関係者、教員、観光ガイド、行政担当者、環境団体が湿地の問題と対策を話し合うワークショップを開催した2022年10月~2023年10月。初年度の参加者は合計270人以上水域の清掃、観光客による攪乱、廃棄物、開発、普及教育などについて地域側の提案を集め、IUCNの事業報告と行政への提言に反映した
行政との連携ソコトラ県知事府、イエメン環境保護庁、地方議会、教育・保健・廃棄物管理部門が活動に参加した2022~2023年淡水域の保全を研究者だけの活動にせず、土地利用、水管理、教育、廃棄物対策を担当する行政部門と共有する体制がつくられた
学校教育絵画コンテスト、湿地に関する講演、教員と児童への普及活動を実施した。2023年2月にはソコトラ島で初めて世界湿地の日を祝う行事が開かれた地元学校、環境保護庁、IUCN関係者。講演会には約80人が参加子どもや教員に、ソコトライトトンボなどの固有淡水生物と水域保全の関係を伝えた
啓発資料の作成ソコトラ島の淡水生物を紹介する英語・アラビア語の資料を作成した。案内板や地域の工芸品にも固有淡水ガニとイトトンボの図柄が使用されたFriends of Socotra、地域団体、地元女性の工芸組合本種を研究者だけが知る昆虫ではなく、地域の自然遺産として認識してもらう取り組みである
湿地への案内板設置デトワ潟湖とシリヒン潟湖に、水域の重要性と保全を伝える案内板を設置したIUCN湿地保全プロジェクト、イエメン環境保護庁、地域団体。2023年両潟湖は本種の中心的な山地流水とは異なるが、ソコトラ島の水域全体を保全対象として認識させる普及活動となっている
廃棄物の除去デトワ自然保護区などで地域住民による清掃活動を実施し、約500キログラムの固形ごみを回収した地域住民、地方行政、環境団体、観光関係者本種の主要生息地を直接清掃した活動ではないが、水域へのごみ流入防止と、湿地を地域で管理する体制づくりにつながった
ソコトラ保全区分計画島内を国立公園、自然保護区、資源利用区域などに区分し、重要な生態系と伝統的な資源利用を両立させる土地利用制度を設けたイエメン政府。2000年に大統領令で承認本種の生息する山地や渓流の一部は保全区域に含まれるが、淡水生物の分布資料が十分に反映されていない区域もあり、計画の見直しが続いている
国際的な地域保護ソコトラ諸島は2003年にユネスコ生物圏保存地域、2008年に世界自然遺産へ登録されたユネスコ、イエメン政府島の生態系全体に国際的な保護の枠組みを与えているが、登録だけで個々の渓流の取水や汚染が防止されるわけではなく、現地での管理が必要となる
個別地域の管理計画ホムヒル、フィルミン、ロシュ、ディハムリの4地域について個別管理計画が作成されたイエメン環境保護庁、UNEP・GEF関係事業ホムヒルは本種の確認地域で、ロシュ周辺にも記録地点がある。地域計画は間接的な保護となるが、渓流の水量・水質を対象とした具体的管理内容は限定されている
UNEP・GEF統合保全事業保護区域の管理、行政・地域団体の能力向上、外来種対策、持続可能な土地管理、生物多様性情報の収集と公開を実施したUNEP、GEF、イエメン水・環境省、環境保護庁など。2016年2月~2025年9月本種単独の事業ではないが、ソコトラ島の保護区域と生息環境を管理する行政基盤の強化に寄与した
保全区分計画の更新近年判明した生物分布、開発、観光、外来種、汚染、気候変動などを保全区域の設定と管理へ反映する見直しが進められているイエメン政府、環境保護庁、国際機関2020年に整理された本種の分布データを、道路建設、取水、観光開発などの審査へ組み込む機会となる
新しい統合保全事業ソコトラ諸島の生物多様性保全と、イエメン本土のアデン湿地の持続可能な管理を目的とするUNEP・GEF事業11408。2025年12月に実施承認、2026年時点で進行中だが工程は未確定総額約931万ドル、うちGEF助成約442万ドル。本種に特化した事業ではないが、保護区域、湿地管理、土地劣化対策が実施されれば生息地保全につながる
恒久的流水の優先保護山地の渓流、ワジの深い淵、岸辺植生を一体として保護し、淡水生物を主目的とする新しい保護区域を設けることが研究者から提案されているソコトラ・トンボ類アトラス研究チーム本種の繁殖地を直接守る対策。既存の保護区域は陸上植物や景観を中心に設定された場所が多く、表流水の保全が十分でないことが背景にある
取水管理恒久的な渓流からの取水量、井戸開発、農園や家庭菜園への導水が水生生物へ与える影響を調査し、水系単位で管理することが求められているIUCN世界遺産評価、淡水研究者による優先課題全島を対象とした取水量の監視制度や、本種の生息渓流に必要な最低流量の設定は行われていない
汚染・殺虫剤対策生活排水、農薬、蚊・マラリア対策で使用される殺虫剤が水生無脊椎動物へ与える影響を監視し、重要水域への流入を防ぐことが課題とされる環境保護庁、保健部門、淡水保全関係者2019年には水域への殺虫剤散布が確認されている。水生昆虫を対象外とする薬剤散布であっても本種の幼虫に影響するため、散布場所・方法の見直しが重要となる
岸辺植生の保全過放牧、伐採、道路建設による岸辺植生の消失を抑え、土壌流出と水温上昇を防ぐ保護区域管理、持続可能な土地管理事業本種の成虫が休息・繁殖に利用する岸辺環境と、幼虫の生息する清澄な河床を同時に守る対策となる
継続的な課題定点調査、個体数調査、水量・水温・水質の測定、取水量の把握、干ばつ後の再調査を継続する環境保護庁、地域調査員、大学、IUCN関係者現在の活動は分布確認と普及教育が中心で、個体数の長期変化や保全対策の効果を数値で検証する監視体制は整備途上にある

出典

世界の水不足と巨大送水プロジェクト|水を運べば渇きは消えるのか

Questioner: I wonder if the island is gradually drying out from the lower elevations upward. If urbanization keeps expanding, this little damselfly may end up competing with us humans for water. And I’m starting to feel that this isn’t happening only on the tiny island of Socotra. It feels like the same thing is happening all over the world.

Me: I think so too. One recent example is the enormous data centers being built around the world. They continue to consume vast amounts of water to cool servers that generate tremendous amounts of heat.

Questioner: So we’re reaching a point where machines drink water while humanity goes thirsty. But there’s an enormous amount of water in the oceans, even if it is saltwater. Rivers are always flowing, and some places are devastated by floods. From everything we’ve looked into so far, I also know that part of the problem is that rain no longer falls where it used to, while places that rarely saw much rain are suddenly hit by enormous downpours. Even so, I still find myself wondering, “Why is there never enough water?”

Me: It does seem strange. And that is precisely why massive water-transfer projects are now being planned and carried out around the world—projects designed to transport huge quantities of water over long distances from water-rich regions to dry ones. Let’s take a closer look at the harm these projects may cause to the planet.

質問者:ふもとから徐々に乾燥してきている感じなのかな。それでも都市化がこれ以上進むと僕たち人類と水を取り合うことになっちゃうね。これって、この小さなソコトラ島だけで起きている現象じゃなくて世界中で起きているような気がしてきた。

私:そうですね。最近でいえば、世界中で建設が相次ぐ巨大データセンターです。これは、発熱するサーバーを冷やすために膨大な量の水を冷却水として消費し続けています。

質問者:機械が水を飲んで、人類が渇くってことが起きているみたいだよね。だけど、海には海水だけど大量に水がある。川だっていつも流れてるし洪水で被害がでている地域もある。それで、今まで降っていたところで降らなくなって、降っていなかったところにいきなり大量に降るってことも起きてることが原因だっていうことも、今まで調べてきて知ってる。なのに、「なんでそんなに水が足りないのかな」って不思議になるよ。

私:不思議ですよね。そのようなことから今まさに、「水が豊富な地域から乾燥した地域へ大量の水を長距離で引く」といった巨大送水プロジェクトが、世界各地で実際に計画、実行されています。このプロジェクトが地球に及ぼす悪影響を調べてみます。


水を運べば、渇きは消えるのか|世界で進む巨大送水の代償

海には膨大な水があり、川は絶えず流れ、ときには洪水まで起きています。それなのに、なぜ世界では水不足が深刻になっているのでしょうか。

その答えとして、いま各地で進められているのが、水の豊富な地域から乾燥地へ大量の水を運ぶ巨大送水事業です。しかし、水を移せば渇きが消えるとは限りません。導水管の出口で都市が潤う一方、入口では川や湿地が乾き始めることがあります。

それは水不足の解決ではなく、渇きを別の場所へ移しているだけなのかもしれません。

1. 地球に水が多くても、人間が使える水はごくわずか

地球表面の約7割は水で覆われていますが、その大部分は海水です。淡水も多くは氷河、積雪、深い地下水などに存在し、UN-Waterは、人間が利用可能な淡水を地球上の水の約0.5%と説明しています。

さらに、そのわずかな淡水も均等には存在しません。

水が豊富な地域であっても、雨季に集中して降る、冬には雪や氷として蓄えられる、洪水時に一気に海へ流れるなど、必要な時期と一致しないことがあります。反対に、人口や農地、工場、都市、データセンターなどの需要は、一年を通して継続します。

つまり水不足とは、水の総量ではなく、

「必要な場所に、必要な時に、必要な水質の水がない」

という時間的・地理的・社会的な不一致です。

2. 洪水が起きているのに、その水を使えない理由

洪水で流れる水を貯めて乾燥地へ運べばよいように思えますが、洪水の水は短時間に集中し、泥、流木、下水、化学物質、病原体などを含むことがあります。これを飲料水や工業用水として利用するには、貯水施設、沈殿、浄水、消毒、送水設備が必要です。

また、洪水は単なる「余った水」ではありません。

河川の増水は、湿地への給水、地下水の涵養、魚類の移動や繁殖、河口や海岸への土砂・栄養塩の供給などを担っています。洪水をすべて貯水池や運河へ取り込めば、下流の湿地や干潟、デルタ、沿岸漁業が失うものも大きくなります。

重要なのは、洪水の一部を氾濫原、湿地、地下帯水層などへ安全に蓄えることであり、洪水をすべて「未利用の水」と見なすことではありません。

3. 水不足には三つの種類がある

FAOは水不足を、おもに次の三つに分けています。

  • 物理的な水不足
    需要に対して、利用できる良質な淡水そのものが少ない状態。
  • アクセスの不足
    水源は存在していても、制度、権利、所得、差別などによって一部の人が利用できない状態。
  • インフラの不足
    水源は存在していても、浄水場、送水管、貯水施設、電力、維持管理体制が不足している状態。

したがって、水不足の地域へ大量の水を送っても、貧しい地域に配水管がなければ人々には届きません。水が農園や工業団地、観光施設へ優先的に供給されれば、送水量が増えても住民の水不足が解消されない場合があります。

水不足は自然現象であると同時に、誰にどれだけ配るのかという政治と経済の問題でもあります。

4. 水需要の中心は依然として農業

世界の淡水取水量のおよそ7割は農業に使われています。産業用と生活用がそれに続きます。

ここで注意が必要なのは、「取水量」と「消費量」は同じではないことです。河川から取った水の一部が処理後に戻される場合もあれば、灌漑や冷却によって蒸発し、水系へすぐには戻らない場合もあります。

データセンターも水需要を増やす要因のひとつですが、すべての施設が同じ量の水を消費するわけではありません。

蒸発冷却を使う施設では冷却水が消費されますが、空冷方式や閉鎖循環式を採用する施設では直接的な水消費を抑えられます。一方で、データセンターが使用する電力を火力発電所や原子力発電所が供給している場合、発電所側でも冷却水が必要になります。

そのため、データセンターの水使用は、

  • 施設内で直接使う水
  • 発電に伴って間接的に使う水
  • 取水した水のうち実際に蒸発などで失われる量
  • 立地する流域がもともと水不足かどうか

を分けて考える必要があります。

「機械が水を飲み、人類が渇く」という状況は起こり得ますが、問題の大きさは施設の冷却方式と立地によって大きく異なります。また、世界全体では依然として農業用水が最大の割合を占めています。

5. 世界で進む巨大送水プロジェクト

異なる河川流域を運河、トンネル、パイプライン、ダムなどで結び、水を移動させる仕組みは「流域間導水」または「流域間送水」と呼ばれます。

2018年に発表された世界規模の研究では、34件の既存事業と、計画中・建設中だった76件の巨大送水事業が整理されました。その時点の計画がすべて実現した場合、年間約1,910立方キロメートルの水が移動し、施設の総延長は8万キロメートルを超え、総投資額は約2兆7,000億ドルに達すると推定されました。

ただし、これには構想段階の巨大計画も含まれており、すべてが実際に建設されるという予測ではありません。それでも、世界が水不足への対応を、河川や地下水の節約よりも、遠方から水を運ぶ巨大インフラへ求め始めていることを示しています。

代表的な事業には、中国の南水北調、米国カリフォルニア州水利事業、レソトから南アフリカへ送水するレソト高地水事業、インドの河川連結計画などがあります。

中国の南水北調では、2025年までに東線と中線を通じて累計800億立方メートル以上が中国北部へ送られ、都市用水の確保、地下水の過剰採取の緩和、河川への環境用水の補給などに利用されました。

送水事業が人命、食料生産、都市活動、生態系の回復を支える場合があることも事実です。

6. 取水側で起こる「見えない水不足」

巨大送水の最大の問題は、水を受け取る都市から遠く離れた取水側で起きます。

河川から大量の水を取り除けば、下流の流量が減り、湿地や氾濫原が乾燥します。河口まで届く淡水が減れば、海水が河川や地下水へ入り込みやすくなります。土砂の供給が減ることで、デルタや海岸線が後退することもあります。

河川の水量には、生態系を維持するために必要な「環境流量」があります。川を流れている水は、人間がまだ使っていない余剰水ではありません。魚、昆虫、水鳥、河畔林、湿地、農業、漁業、地下水、河口域がすでにその流れを利用しています。

したがって「水が余っている流域」という判断は、年間降水量だけでは決められません。

  • 乾季にも必要な流量が残るか
  • 将来の干ばつに耐えられるか
  • 下流住民の生活用水を確保できるか
  • 湿地や河口へ必要な水と土砂が届くか
  • 気候変動後も同じ量を送り続けられるか

これらを差し引いたうえで、初めて送水可能量を考える必要があります。

アラル海の縮小は流域間送水そのものではありませんが、河川水を「利用可能な余剰」と見なして灌漑へ回し続けた結果、下流の湖と漁業、地域経済、住民の健康まで失われた例です。水を抜き取る側の利益だけを見れば、同じ構造は巨大送水でも起こり得ます。

7. 水と一緒に、生物や汚染物質も運ばれる

本来つながっていなかった水系を接続すると、移動するのは水だけではありません。

魚類、貝類、水草、藻類、微生物、寄生虫、病原体、農薬、重金属などが水路を通じて別の流域へ移動する可能性があります。

移入した生物が在来種を捕食したり、餌や繁殖場所を奪ったり、近縁種と交雑したりすれば、受水側の生態系が均質化していきます。いったん運河や河川網へ広がった生物を完全に取り除くことは困難です。

水質も同じです。取水側に存在した農業排水や工業汚染物質が運ばれる場合もあれば、受水側で水量が増えたことによって灌漑や産業活動が拡大し、新しい汚染が発生する場合もあります。

巨大送水路は、水不足の解決策であると同時に、生態系の境界を越える人工的な回廊にもなります。

8. 受水側でも環境悪化が起こる

水を受け取る側では、地下水の回復、河川流量の増加、水質改善などの効果が期待できます。しかし、水が増えれば必ず生態系が改善するわけではありません。

乾燥地で灌漑を急拡大すると、地下水位が上昇して農地が過湿状態になり、強い蒸発によって塩分が地表へ集まることがあります。これが灌漑地の塩類集積です。

また、新しい水源が確保されると、それを前提に住宅地、農園、工場、観光施設が増えることがあります。しばらくすると新しい需要が送水量を使い切り、再び水不足になります。

これは道路を増やすと自動車交通が増える「誘発需要」とよく似ています。

送水によって水不足が解消されたのではなく、より多くの水を必要とする都市や産業構造へ変化しただけ、という状態です。いったん都市が拡大すると、送水を止めることも難しくなります。

9. 水を運ぶために、電気が必要になる

水1立方メートルは約1トンあります。低い場所から高い場所へ持ち上げる場合、送水量と高低差が増えるほど大きな電力が必要になります。長距離のパイプラインでは摩擦による損失も加わります。

ただし、すべての送水事業が大量の電力を消費するわけではありません。高地から低地へ重力で流す事業では、途中で水力発電を行える場合もあります。問題になるのは、大量の水を山脈や高原を越えてポンプで持ち上げる事業です。

カリフォルニア州水利事業は全長約1,130キロメートルに及び、南部へ水を送るためにテハチャピ山地を越えます。年間のポンプ電力は水量や降水状況により約250万~950万MWhと変動し、同州最大級の電力需要設備となっています。

電力が化石燃料によって供給されれば、送水のための温室効果ガス排出が増えます。その排出が温暖化を進め、干ばつや蒸発量の増加を通じて、さらに水需要を増やす負の循環が生まれます。

10. 気候変動で「水をくれる川」も不安定になる

温暖化によって、洪水と干ばつが同時に増えるという一見矛盾した現象が起きています。

暖かい大気は多くの水蒸気を保持できるため、雨が降るときには短時間に激しくなります。一方で、高温によって蒸発が増え、土壌は乾き、雨のない期間の干ばつは深刻になります。

WMOによると、2024年に平年並みの状態だった世界の河川流域は約3分の1にすぎず、残りは平年より多いか少ない状態でした。

このような環境では、取水側を「将来も水が余る地域」として固定することが難しくなります。送水事業の完成には長い年月がかかり、運用は数十年から百年以上続きます。その間に降水量、積雪、氷河、農業、水需要が変化します。

取水側と受水側が同時に干ばつになる可能性もあります。そのとき、誰の飲料水、農業、生態系を優先するのかという争いが生じます。

巨大送水は水を増やす技術ではありません。限られた水の優先順位を、巨大な設備によって固定する技術でもあります。

11. 海水淡水化なら解決できるのか

海水淡水化は、特に海岸部の都市にとって重要な選択肢です。河川流量に左右されにくく、干ばつ時にも比較的安定した水源になります。

一方で、海水を取水し、塩分を除去し、高圧ポンプを動かすためのエネルギーが必要です。淡水化後には高濃度の塩水が残り、適切に希釈・処理せず海へ戻せば、海底付近の塩分や水温を上昇させ、溶存酸素や海洋生物へ影響を与える可能性があります。

内陸部へ送る場合は、淡水化した水をさらに長距離輸送する必要があります。

そのため海水淡水化も「無限の水源」ではなく、再生可能エネルギー、取水方法、濃縮塩水の処理、利用目的まで含めて設計する必要があります。

12. 巨大送水の前にできること

水不足への対策は、巨大送水か何もしないかの二択ではありません。

優先すべきなのは、次のような対策です。

  • 河川と地下水の取水量を正確に把握する
  • 生態系と下流住民に必要な環境流量を先に確保する
  • 老朽化した水道管や灌漑水路の漏水を減らす
  • 処理した下水を工業用水、農業用水、都市緑化へ再利用する
  • 雨水を地下へ浸透させ、帯水層を天然の貯水池として利用する
  • 湿地、森林、氾濫原を回復し、水をゆっくり蓄える
  • 乾燥地で栽培する作物と農業規模を見直す
  • 節水によって生まれた水を、新しい農地拡大へ使わせない
  • データセンターや工場を水不足流域へ集中させない
  • 水を大量に使う製品や農作物を、水効率の高い地域で生産する
  • 住民の基本的な飲料水を、産業や観光より先に確保する

それでも地域内で必要量を確保できない場合に、再生水、淡水化、流域間送水を組み合わせて検討します。

巨大送水を行う場合も、年間一定量を送り続けるのではなく、取水側の水量に応じて送水を減らす仕組み、魚類や外来生物の移動を防ぐ設備、水質監視、住民への補償、渇水時の優先順位を事前に定める必要があります。

出典


Questioner: The part about how “once a new water source is secured, more housing developments, farms, factories, and tourist facilities are built around it” feels painfully real. Maybe humanity simply uses as much as it can get. Then again, I’m the kind of person who keeps spending until my wallet is empty…

Me: I have something similar in me. I’m currently using solar panels to take my home office off-grid. One thing this has taught me is that when people have more electricity, they want to use more electricity.

The first things I worked on were insulation and energy efficiency—how to reduce energy losses and live without using more electricity than necessary. When I started, I had a single 460Ah battery. Now I have four portable power stations helping to power the office.

Looking back, that original 460Ah battery would probably have been enough. I added more solar panels along the way, but the original 1,200W of panels should have been enough too. Yet my desire for greater comfort—and my reluctance to change the way I had always used electricity—got in the way. Before I knew it, I was trying to recreate the same level of electricity use I had before going off-grid.

Questioner: That’s exactly it. Before you know it, you’re using more. And once you start spending more, you take on more work to pay for it. For me, it’s money. For you, it’s electricity. And for the species we’re looking at this time, it’s water. But all of these problems ultimately come down to the decisions we make.

Me: I think so. Before we use technology to create more, perhaps we first need to decide where to draw the line and say, “This is enough.”

Adding more batteries may make us feel safer. Bringing water in from far away may allow cities to grow even larger. But if our use expands every time the supply expands, it will not be long before there is not enough again.

Whether we are talking about my off-grid system or the world’s water crisis, it seems that we must set a limit on our own desires before we reach the limits of our infrastructure.

Questioner: But at least we can say, “We still don’t have enough.” If we run short of electricity, we can say, “Let’s add more batteries.” If we run short of water, we can say, “Let’s bring it in from some distant river.”

But the creatures already living there cannot say, “That water belongs to us too…”

In the end, aren’t the creatures without a voice always the first ones forced to go without?

Me: I believe they are. The Socotra Bluet we’ve been looking at cannot survive without the clear mountain streams and the deep pools in the wadis where water remains even during the dry season.

As the lower parts of the island grow drier, and its cities, farms, and tourist facilities demand more water, this tiny damselfly is forced to share the same water sources with humans. Yet it is always humans who decide which side comes first.

Perhaps this little damselfly will not be pushed to the brink of extinction when the island runs out of water completely. Perhaps it will happen when we keep securing our share first, until there is no water left for them.


Thank you for sharing your precious time with me.

I hope those feelings somehow reach the Socotra Bluet.

鶏人|Keijin

質問者:「新しい水源が確保されると、それを前提に住宅地、農園、工場、観光施設が増える」ってのがリアルだよね。あればあっただけ使うってのが人類なのかな。たしかに僕も財布の中身が空になるまで遊んじゃうからな……。

私:私もそれに近いものはあります。現在、太陽光パネルを使って、自宅事務所のオフグリッド化を進めています。その時に感じたことは、「人は電気があればあるだけ使いたくなる」といったことなのです。最初にやったことは、断熱と省エネです。いかに電気のロスを減らしいかに電気のロスを減らし、いかに電気を使わずに生活するかといったことです。しかし、やり始めたときは460Ahの蓄電池一つでしたが、今では4台のポータブル電源を設置して事務所の電力を賄ってます。今考えると、460Ahの蓄電池でも足りるのです。それに伴ってパネルも増設しましたが、今考えると、最初の1,200Wでも足りていたはずです。しかし、快適性を求めたり、今までの電気の使い方を変えたくないといった意識が邪魔をして、いつの間にか、オフグリッドを始める前の電力の使い方に戻そうとしている自分がいました。

質問者:そうなんだよね。気がつくと使ってるんだよ。そして使う量が増えると働く仕事の量を増やしたりね。これ、僕はお金の問題だし、君は電気の問題で、今回の種は水の問題だったけど、これ、全て僕たちの「意志決定」にかかってる問題だね。

私:そうですね。技術で増やすことより先に、どこで「もう足りている」と決めるのかが大切なのだと思います。蓄電池を増やせば安心できるし、水を遠くから運べば都市はさらに大きくできます。でも、増やした分だけ使い方まで大きくなれば、しばらくしてまた足りなくなる。私のオフグリッドも、世界の水問題も、どうやら設備の限界より先に、自分たちで欲望の上限を決めなければならないようです。

質問者:だけど僕たちは、「まだ足りない」って言えるからいいよね。電気が足りなければ蓄電池を増やそうって言えるし、水が足りなければ、どこか遠くの川から運ぼうって言える。でも、そこに暮らしている生き物たちは、「その水は僕たちの分でもあるんだけど……」って言えない。結局、声を上げられない生き物から先に我慢させられてるんじゃないのかな。

私:そうなのだと思います。今回調べているソコトライトトンボも、島の山地を流れる清澄な小川や、乾季にも水が残るワジの淵がなければ生きていけません。ふもとから乾燥が進み、都市や農業、観光がさらに水を求めれば、同じ水源を人間と分け合うことになります。ただし、どちらが優先されるかを決めるのは、いつも人間です。この小さなイトトンボを絶滅のふちへ追いやるのは、島から水が完全になくなったときではないのかもしれません。私たちが自分たちの分を先に確保し続けた結果、彼らに残される水がなくなったときなのだと思います。


貴重な時間を、ありがとうございました。

ソコトライトトンボに、その想いが届くことを祈ります。

鶏人|Keijin


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