※このページは、[IUCNレッドリスト]世界の絶滅危惧生物図鑑(2014年版)に基づいて制作した個人ブログです。
Hi, I’m 鶏人|Keijin.
In the 2014 reference book, Atlantic salmon (Salmo salar) were classified as “LC: Least Concern.” Although declines had already been documented in some regions, the species was still widely distributed on both sides of the North Atlantic, with a large global population and an extensive overall range.
In recent years, conservation efforts have expanded across many regions. Alongside fishing restrictions, these efforts include removing dams and weirs, improving fish passage, protecting riverside forests and cold-water habitats, and addressing escaped farmed salmon and sea lice. Even so, they haven’t been enough to halt the deterioration of river habitats or the decline in survival at sea. In some regions, the number of large adults returning to spawn continues to fall.
As of 2026, the latest available IUCN Red List assessment shows that Atlantic salmon were reclassified as “NT: Near Threatened” in 2022. This change followed an estimated 23% decline in the global population between 2006 and 2020, along with the species disappearing from rivers where it once lived and the continuing loss of large adults returning to spawn.
Atlantic salmon still have rivers to return to. But fewer and fewer are surviving the journey home.
I’ve gathered the more detailed information in the expandable sections below.
But first, I’d be glad if you stayed with the main story through to the end.
こんにちは、鶏人|Keijinです。
タイセイヨウサケ(Salmo salar)は、2014年の図鑑では、北大西洋の両岸に広く分布し、地域的な減少が確認されていても、世界全体では大きな個体群と広い分布域が残っていると判断されていたことなどから「LC:低懸念」と評価されていました。
近年は、漁獲規制に加え、ダムや堰の撤去、魚道の改善、河畔林と冷水域の保護、養殖サケの脱走やサケジラミへの対策などが各地で進められています。しかし、河川環境の悪化と海洋生存率の低下を食い止めるには至らず、地域によっては産卵に戻る大型魚の減少が続いています。
そして、2026年時点で確認できるIUCNレッドリストの評価は、世界の個体群が2006年から2020年までに約23%減少したと推定され、かつて生息していた河川からの消失や大型の産卵親魚の減少も続いていることから「NT:準絶滅危惧」へ2022年に変更されました。
タイセイヨウサケは今も、「帰る川はあるのに、戻れる命が減っていく」という状態なのだと思います。
少し詳しい内容は折りたたみの中にまとめています。
まずは本文だけでも、最後まで読んでもらえたらうれしいです。
※2026年時点で、IUCNレッドリストにおける最新評価は2022年評価(2023年公開)です(以降の更新は、現時点では確認できていません)。
※本記事は専門家による学術的な評価ではなく、公開された資料に基づく個人の調査・見解を含みます。
※IUCN評価は「世界全体」と「地域・個体群」で分かれる場合があります。地域によって状況は異なります。
最新かつ正確な分類や保全状況については、IUCN公式サイトなどをご確認ください。
参考:IUCN Red List(学名:Salmo salar)
タイセイヨウサケはなぜ低懸念(LC)から準絶滅危惧(NT)になったのか
⬇︎タイセイヨウサケの生態(基本情報)です。必要なら開いてください。

| 項目 | 基本情報 |
|---|---|
| 和名 | タイセイヨウサケ。水産研究・教育機構が掲載している標準和名である。流通上は「アトランティックサーモン」「ノルウェーサーモン」などとも呼ばれるが、標準和名はタイセイヨウサケ。 |
| 英名 | Atlantic Salmon |
| 学名 | Salmo salar Linnaeus, 1758 |
| 分類 | 動物界・脊索動物門・条鰭綱・サケ目・サケ科・タイセイヨウサケ属。北大西洋を原産とするサケ類は本種1種で、太平洋側のサケ類の多くはOncorhynchus属に分類される。 |
| 現在のIUCNカテゴリー | 準絶滅危惧(NT)。2014年の図鑑に記載された低懸念(LC)から引き上げられた。 |
| 自然分布 | 北大西洋の両岸と、そこへ流れ込む河川に自然分布する。北米側ではカナダ北部ケベック、ニューファンドランドから米国北東部まで、ヨーロッパ側ではアイスランド、英国・アイルランド、西ヨーロッパ、スカンディナビア半島、バルト海、白海、バレンツ海へ流入する河川などに分布する。 |
| 地理的な集団 | 大きく北米集団、ヨーロッパ集団、バルト海集団に分けられる。さらに同じ地域でも河川ごとに遡上時期、成熟年齢、体格、海洋回遊経路などが異なり、それぞれの河川環境に適応した個体群を形成する。 |
| 陸封型 | 多くは海と川を往復する遡河回遊型だが、海へ下らず湖で成長し、産卵時に支流へ遡上する陸封型も存在する。北米の一部の湖や北ヨーロッパなどで知られている。 |
| 日本での分布 | 日本には自然分布せず、野生個体群も定着していない。日本で「サーモン」として流通する本種の多くは、海外で養殖された輸入魚である。 |
| 主な生息環境 | 卵、稚魚、幼魚は、冷たく酸素の多い河川で暮らす。幼魚は石や礫の多い瀬、浅い流れ、小支流の合流部などを利用する。スモルトになると河口と沿岸を通過して北大西洋へ移動し、成魚になるまで外洋の餌場で成長する。 |
| 体形 | 水の抵抗を受けにくい紡錘形で、体はやや左右に平たい。頭部は比較的小さく、口は一般的に眼の後端付近まで達する。背びれと尾びれの間に、サケ科魚類に共通する脂びれを持つ。 |
| 成魚の識別点 | 海洋生活中は背側が青緑色から暗色、体側が銀白色、腹側が白い。黒い斑点は主に側線より上にあり、尾びれには通常目立つ黒斑がない。近縁のブラウントラウトと比べると口が小さく、体側の黒斑も少ない傾向がある。 |
| 成長に伴う体色変化 | 河川の幼魚は褐色から黄褐色で、体側にパーマークと呼ばれる縦長の暗色斑や赤黒い小斑点を持つ。海へ下る前のスモルトになると縦斑が薄れ、全身が銀色になる。産卵のため河川へ入った成魚は、銀色から褐色、青銅色、赤褐色へ変化する。 |
| 繁殖期の雄 | 成熟した雄では下顎の先端が鉤状に曲がる「鼻曲がり」が発達し、体色も赤色や褐色を帯びる。顎の変化は繁殖相手や産卵場所をめぐる雄同士の競争に関係している。 |
| 大きさ | 海で2冬を過ごした成魚は、一般に全長約71~76センチ、体重約3.6~5.4キログラム。海で過ごす年数が長い個体や複数回産卵した個体はさらに大型化する。記録上は全長約150センチ、体重約46.8キログラムに達した例がある。 |
| 寿命 | NOAAの種情報では一般的な寿命は4~6年とされるが、河川と海で過ごす年数は地域によって大きく異なる。確認されている最高年齢は13年である。 |
| 生活史 | 卵、アレビン、稚魚、パー、スモルト、海洋生活期、成魚という段階を経る。淡水と海水では体内に入る水分と塩分の条件が反対になるため、海へ下る前に鰓や腎臓、体色、行動を変化させる必要がある。 |
| 淡水生活期 | 孵化後の幼魚は、一般に1~3年ほど河川で成長するが、寒冷な北部ではスモルトになるまで5~6年かかる場合がある。幼魚は一定の場所を縄張りとして守り、冬は石の隙間や川底に身を隠して過ごす。 |
| スモルト化 | 春の水温と日照時間の変化をきっかけに、淡水生活型のパーから海水適応型のスモルトへ変化する。体色が銀色になり、鰓や腎臓の働きが海水に対応するとともに、流れに逆らう行動から流れに乗って下る行動へ切り替わる。 |
| 海洋生活期 | スモルトは河口と沿岸を通過して北大西洋の餌場へ向かい、通常1~3年を海で過ごす。北米の個体群はラブラドル海やグリーンランド周辺、ヨーロッパの個体群はノルウェー海やグリーンランド周辺などを重要な餌場として利用する。 |
| 海齢による呼び分け | 海で1冬を過ごして戻る個体は1SWまたはグリルス、2冬を過ごした個体は2SW、2冬以上を過ごした大型個体はMSWと呼ばれる。一般に、海で過ごす年数が長いほど体が大きくなる。 |
| 母川回帰 | 多くの成魚は生まれた河川へ戻り、なかには同じ支流や流域まで戻る個体もいる。海洋では地球の磁場、沿岸から河川に近づいた後は水に含まれる化学的な匂いを手掛かりにしていると考えられている。ただし一定数は別の河川へ迷入し、個体群間の遺伝的交流に寄与する。 |
| 産卵環境 | 産卵は地域によって秋から冬に行われる。雌は冷たく酸素の多い河川の砂礫底を尾びれで掘り、レッドと呼ばれる産卵床を造る。卵は一般に川底から約15~30センチの深さに産み付けられ、受精後に礫で覆われる。 |
| 産卵数 | 産卵数は雌の大きさによって変わり、体重1キログラム当たり約1,500~1,800個が目安とされる。大型の雌では1万個を超え、10キログラムを超える個体が約1万5,000個を産む場合もある。 |
| 産卵後の生態 | 太平洋のサケ類と異なり、すべての成魚が産卵後に死亡するわけではない。産卵を終えた個体はケルトと呼ばれ、一部は再び海へ下って体力を回復し、別の年に再度産卵する。ただし、産卵と回遊による消耗が大きいため、複数回産卵できる個体は多くない。 |
| 河川での食性 | 稚魚と幼魚は水生昆虫、昆虫の幼虫、甲殻類、軟体動物などを食べ、成長すると小魚も捕食する。流下してくる餌を待ち受けるため、流れのある瀬で縄張りを持つ。 |
| 海での食性 | 海へ下った後は、動物プランクトン、オキアミ、ヨコエビ類、エビ類のほか、カラフトシシャモ、ニシン類、イカナゴ類、小型のサバ類などを捕食する。海では餌が豊富なため、淡水生活期より急速に成長する。 |
| 産卵遡上中の摂餌 | 成魚は河川へ入ると摂餌をほぼ停止し、海で蓄えた脂肪と筋肉を、遡上、産卵床づくり、雄同士の競争、卵や精子の成熟に使う。そのため、産卵後のケルトは著しく痩せ、病気や捕食を受けやすくなる。 |
| 捕食者 | 幼魚は大型魚、鳥類、ウナギ類などに捕食される。海洋生活期には大型魚、サメ類、海鳥、アザラシ類、イルカやシャチなどの歯鯨類が捕食者となる。 |
| 生態系との関係 | 河川、河口、沿岸、外洋を結ぶ回遊魚であり、複数の生態系で捕食者と被食者の両方の役割を担う。水温、水質、流量、河床、海洋の餌環境など多くの条件を必要とするため、健全な河川・海洋生態系を示す指標種ともされている。 |
出典
最終評価2022年:タイセイヨウサケ「NT:準絶滅危惧」
1. 現在の状態

1-1. 低懸念(LC)から準絶滅危惧(NT)へ引き上げ
タイセイヨウサケ(Salmo salar)は、2014年の図鑑では低懸念(LC)でしたが、現在のIUCNレッドリストでは準絶滅危惧(NT)に引き上げられています。最新の世界評価は2022年4月6日に実施され、2023年に公表されたもので、評価基準はA2bdです。
引き上げの大きな根拠となったのは、世界の個体群が2006年から2020年までの間に23%減少したという新たな推定です。危急(VU)の基準には達していないものの、このまま減少が続けば近い将来に絶滅危惧カテゴリーへ入る可能性がある状態と判断されました。
かつては北ヨーロッパと北米の広い河川に遡上していましたが、現在は100年前に生息していた河川の一部にしか残っていません。したがって、準絶滅危惧という世界評価だけを見るよりも、分布の縮小と地域個体群の消失をあわせて考える必要があります。
1-2. 2025年の調査でも、大型の成魚が深刻に減少
2026年に公表されたICESの最新報告では、地域や年齢によって回復状況が大きく異なり、とくに複数の冬を海で過ごした大型のサケが低水準にあります。
北東大西洋北部では、海で1年を過ごした1SWと、複数年を過ごしたMSWの回帰数は全体として繁殖能力を保っていました。ただし、MSWの回帰数は長期記録のなかでも低く、MSWの産卵親魚は繁殖能力が低下する危険のある水準でした。
一方、北東大西洋南部では、1SW、MSWともに回帰数と産卵親魚数が繁殖能力の低下した状態にあり、いずれも観測史上最低となりました。北米では小型の回帰数が1973年以降で3番目に多かったものの、大型魚は56年間で2番目に少なく、初めて2冬を海で過ごして戻る2SW魚は過去最低でした。
小型魚が一時的に増えた地域があっても、大型魚と産卵親魚が減り続けているため、種全体が安定して回復しているとはいえません。
1-3. 河川と海の両方で脅威を受ける生活史
タイセイヨウサケの減少は、一つの原因ではなく、河川と海で受ける複数の脅威が積み重なった結果です。河川ではダムや堰、道路の横断構造物が産卵場所への移動を妨げ、伐採や農業による土砂流入、水質汚染、流量の変化が卵や稚魚の生存率を下げています。
海へ下った後も、餌不足、漁業、捕食、病気、寄生虫、海洋環境の変化にさらされます。河川で弱った幼魚が海で死亡する場合もあり、どこで受けた影響が最終的な死因となったのかを切り分けることは容易ではありません。
米国では、野生個体群は現在、メイン州中部から東部の河川にしか残っておらず、メイン湾個体群は米国絶滅危惧種法でEndangeredに指定されています。2015年以降の年間回帰数は平均1,200匹未満で、歴史的な淡水生息地の約90%が、今もダムなどによって妨げられています。
1-4. 養殖サケとの交雑が野生個体群を変えている
養殖施設から逃げ出したタイセイヨウサケとの交雑は、野生個体群の遺伝的な固有性を広い範囲で失わせています。2026年にノルウェー沿岸の263個体群を調べた評価では、約3分の2の個体群から養殖サケ由来の遺伝子が確認されました。
遺伝的状態が「良好または非常に良好」とされたのは32.7%で、「中程度」が32.3%、「悪い」が7.2%、「非常に悪い」が27.8%でした。2023年の評価よりわずかな改善はみられましたが、交雑の影響は依然として広範囲に残っています。
野生のタイセイヨウサケは、河川ごとに異なる水温、流量、遡上距離、産卵時期などに適応してきました。養殖用に選抜されたサケの遺伝子が入り込むと、こうした地域固有の適応や生産力が弱まり、急速な環境変化に耐える力まで失われる可能性があります。
2. 気候変動の影響
2-1. 河川水温の上昇が卵から海へ下る時期まで変える
気候変動は、タイセイヨウサケの生活史のほぼすべての段階に影響します。卵の発生速度は水温に左右されるため、冬の水温が高くなると孵化と稚魚の浮上が早まり、餌となる水生昆虫が増える時期とずれる可能性があります。
研究レビューでは、胚は約16℃の高温にとくに弱く、河川で暮らす幼魚の成長は16~20℃で良好ですが、23℃付近では成長が止まるとされています。さらに高温になると死亡の危険が急激に高まります。
春の水温上昇は、幼魚が海水に適応したスモルトへ変化し、海へ下る時期も早めます。しかし、海側のプランクトンや小魚の増加時期が同じ速度で変化しなければ、海へ到着した時点で十分な餌を得られない「季節のずれ」が起こります。
2-2. 夏の渇水と冬の豪雨が同じ河川を襲う
今後の北ヨーロッパと北米では、夏は高温と渇水が強まり、冬は雪よりも雨が増えると予測されています。夏の流量低下は生息できる水域を狭めるだけでなく、水温上昇と酸素不足を同時に引き起こし、幼魚や遡上中の成魚を冷水域へ追い込みます。
反対に、冬の豪雨や急激な雪解けによる洪水は、産卵床の砂利を動かして卵を流し、川底の構造を変えることがあります。つまり、単純に水が減るだけではなく、渇水と洪水の振れ幅が大きくなることが問題です。
ダムや堰がある河川では、サケが冷たい支流や上流部へ逃げられません。気候変動による高温と、人工構造物による分断が重なることで、これまで利用できた生息地が事実上使えなくなります。
2-3. 北大西洋の変化が海での生存率を下げる
現在の減少を支える大きな要因の一つが、海へ下った後の低い生存率です。タイセイヨウサケの海洋生存率は過去数十年間に大きく低下し、十分な数の幼魚が川から海へ出ても、成魚となって故郷の川へ戻れない状態が続いています。
海水温の上昇は、サケを直接弱らせるだけではありません。海流、海洋の成層、酸素量、プランクトンの分布を変え、その先にいる小魚などの餌の量や質、分布を変化させます。餌場が移動すればサケの回遊距離や経路も変わり、成長の遅れや飢餓、捕食を受ける危険が高まります。
海での死亡は直接観察しにくく、気候変動だけを単独の死因として数えることは困難です。しかし、広い地域で同時に海洋生存率が低下していることから、北大西洋規模の気候と生態系の変化が重要な背景にあると考えられています。
2-4. 南の個体群ほど逃げ場を失いやすい
温暖化の影響は分布域全体で同じではなく、すでに水温が高い南部の個体群ほど深刻です。北部や標高の高い河川では、水温上昇によって幼魚の成長期間が一時的に延びる場合もあります。しかし南部では、水温が生理的な限界に近づき、成長の利益よりも高温、渇水、酸素不足による損失が大きくなります。
タイセイヨウサケは生まれた川へ戻る性質が強いため、温暖化しても別の冷たい河川へ簡単に移住できません。冷水が湧く支流や深みは重要な避難場所になりますが、ダム、護岸、森林伐採によって移動経路や日陰が失われれば、その逃げ場も利用できなくなります。
2-5. 気候変動は既存の脅威を強める増幅装置になる
気候変動だけでタイセイヨウサケが減っているわけではありません。しかし、海での生存率が低い年には、養殖場由来のサケジラミ、河川の分断、漁獲、汚染などによる追加の死亡が、個体群により大きな打撃を与えます。
養殖サケとの交雑によって地域適応が弱まれば、温暖化への進化的な対応力も低下します。さらに、海水温の変化は外来種の分布拡大を助け、北ヨーロッパではカラフトマスとの競争も新たな脅威になっています。
今後の保全では、漁獲量の管理だけでは不十分です。ダムや堰の撤去と魚道の改善、河畔林による日陰の回復、冷水域の保護、渇水時の流量確保、養殖魚の脱走とサケジラミの抑制を同時に進める必要があります。2014年には低懸念(LC)だったタイセイヨウサケは、現在では準絶滅危惧(NT)となり、「広く分布しているから安全」とはいえない段階に入っています。
出典
- IUCN|Freshwater fish highlight escalating climate impacts on species
- ICES|Working Group on North Atlantic Salmon 2026
- NOAA Fisheries|Atlantic Salmon
- NINA|Genes from farmed salmon detected in two out of three wild salmon populations
- Wiley|Atlantic salmon in a rapidly changing environment
- NOAA Repository|A synthesis of US Atlantic salmon habitat requirements and implications for future suitability under a changing climate
- NOAA Fisheries|Where Do Atlantic Salmon Go to Beat the Heat?
タイセイヨウサケは、2014年の低懸念(LC)から現在は準絶滅危惧(NT)へ引き上げられ、世界の個体群は2006~2020年に約23%減少したと推定されています。とくに北東大西洋南部や北米では、産卵に戻る大型魚の減少が深刻です。ダムや堰による河川の分断、水質悪化、養殖サケとの交雑、寄生虫など、河川と海の両方で複数の脅威を受けています。さらに温暖化による河川水温の上昇や夏の渇水、冬の豪雨、北大西洋の餌環境の変化が、卵や幼魚の成長、海への移動、成魚の回帰を妨げています。広い分布域を持つ種ですが、とくに南部の個体群では冷たい水域への逃げ場も失われつつあり、既存の脅威と気候変動が重なることで減少が加速するおそれがあります。
⬇︎タイセイヨウサケの保護活動の種類です。必要なら開いてください。
| 保全活動 | 具体的な内容 | 実施例・進展 |
|---|---|---|
| 国際的な保全管理 | タイセイヨウサケは複数の国の河川と北大西洋を移動するため、一国だけの保護では十分ではない。北大西洋サケ保全機構(NASCO)が中心となり、漁業管理、河川環境の保護・回復、養殖による影響の削減を主要分野として各国の対策を調整している。 | 2024年からの10か年戦略では、単に減少を記録するのではなく、野生個体群の減少速度を落とし、実際に回復可能であることを示すことが目標となった。各国・地域には、優先的な脅威、対策、数値目標、進捗を報告する仕組みが求められている。 |
| 河川ごとの保全限界による管理 | 産卵に必要な親魚数を「保全限界」として設定し、河川ごとに親魚数、稚魚数、漁獲量、魚類カウンターの記録などを使って個体群の状態を評価する。広い地域を一括して管理するのではなく、河川ごとに異なる回復力と危険度を反映させる方法である。 | スコットランドでは173の内水面評価区域について毎年状態を判定している。保全限界を達成する確率が低い河川では、釣り上げたサケを持ち帰れない強制的なキャッチ・アンド・リリースが適用される。 |
| 漁獲と持ち帰りの規制 | 商業漁業、沿岸漁業、遊漁による死亡を減らすため、禁漁期、漁具制限、漁獲枠、持ち帰り禁止、販売禁止、個体への標識装着などが行われている。複数河川の個体が混ざる沿岸・海洋漁業は、弱い個体群まで同時に捕獲するため、とくに慎重な管理が必要となる。 | スコットランドでは沿岸で捕獲されたタイセイヨウサケの持ち帰りが禁止され、春に遡上する個体群を守るため4月1日以前の採捕も規制されている。釣りで捕獲したサケの販売は禁止され、網で合法的に保持する個体には標識が必要となる。 |
| キャッチ・アンド・リリース | 個体群が保全限界を下回る河川では、遊漁を全面的に停止する代わりに、生きたまま放流することによって親魚を残す方法が使われる。 | 高水温時には、釣り上げと取り扱いによる死亡率が高まるため、水温を基準に釣りを停止する措置も必要となる。釣り針を外す時間を短くし、水中から持ち上げずに放流するなど、取り扱い方法も保全効果を左右する。 |
| ダム・堰・道路横断構造物の撤去 | ダムや堰を撤去し、産卵親魚の上流移動とスモルトの降下経路を回復させる。撤去できない施設には魚道、自然に近い迂回水路、下流移動用の通路を設置する。小規模な暗渠や道路横断部も、流速や段差によって移動障害となるため改修対象となる。 | 米国メイン州のペノブスコット川では、本流のダム2基が撤去され、別の主要ダムには川に近い構造の迂回水路が設けられた。シープスコット川でもダムの撤去と部分撤去によって、産卵・成育環境への移動経路が回復している。 |
| 水力発電施設での魚道改善 | ダムを存続させる場合は、魚道の通過率、タービンによる死亡、ダム湖での移動遅延を調べ、上流と下流の両方向について通過環境を改善する。 | メイン湾個体群の歴史的な淡水生息地の多くは現在もダムに妨げられている。米国では水力発電事業者と連携し、魚道の改善、放流量の調整、スモルトの安全な降下経路の確保が進められている。 |
| 河畔林の回復と植樹 | 河川沿いに在来樹木を植え、日陰によって水温上昇を抑える。樹木の根は岸を安定させ、土砂流入を減らし、落ち葉や倒木は水生昆虫や幼魚の生息場所をつくる。 | スコットランドのディー川上流域では植樹が行われている。河畔林は冷水環境を維持するだけでなく、降雨を一時的に保持して洪水を弱め、干ばつ時にも水分が失われにくい流域を形成する。 |
| 冷水域と避難場所の保護 | 湧水、冷たい支流、深い淵、地下水が流れ込む場所など、高水温時にサケが避難できる場所を特定して保護する。ダムや落差によって冷水域への移動が妨げられている場合は、河川の接続性を回復させる。 | 気候変動への適応策として、冷水域を単独で保護するだけでなく、サケが河川内を移動してそこへ到達できる状態を維持することが重視されている。 |
| 産卵床・幼魚生息地の回復 | 産卵に必要な酸素の多い砂礫底、幼魚が縄張りを持てる瀬、隠れ場所となる石や倒木を回復させる。河道を直線化した場所では、淵と瀬、側流路、湿地などを再形成する。 | 河川工事では単に砂利を投入するだけでなく、洪水後も産卵床が維持される流量と土砂移動を考慮する必要がある。流域全体の自然な河川作用を戻す対策が進められている。 |
| 水質汚染と土砂流入の削減 | 農地からの肥料・農薬・泥、林業による土砂、生活排水、工業排水を減らし、卵や幼魚が育つ河床の目詰まりと酸素不足を防ぐ。下水処理の改善、家畜の河川への立ち入り制限、緩衝帯の設置、侵食した岸の修復などが含まれる。 | 生息地の収容力が汚染や河床劣化によって低下している場合、稚魚を放流するよりも、まず水質と生息環境を改善することが優先される。 |
| 酸性化した河川への石灰投入 | 酸性雨などでpHが低下した河川に石灰を加え、水質を改善する。酸性水ではアルミニウムが鰓に障害を与え、とくに海水適応中のスモルトの生存率を下げるため、春の降下時期を重視して処理する。 | ノルウェーの国家石灰投入事業では、サケがほぼ消えていた酸性河川23本が回復した。これらの河川では再定着が進み、近年は合計で年間1万3,000~1万9,000匹ほどの漁獲を支えるまでになった。政府は年間500万ユーロ以上を投入している。 |
| 法的な重要生息地の指定 | 産卵場、幼魚の成育域、河口、回遊経路を重要生息地として指定し、開発や許認可事業が生息地を破壊しないよう審査する。 | 米国ではメイン湾個体群が絶滅危惧種法の保護対象となり、2009年に淡水域と河口域の重要生息地が指定された。連邦機関が関係する事業では、サケや重要生息地への影響について事前協議が必要となる。 |
| 保全ふ化場による系統維持 | 個体数が極端に少ない河川では、その河川に由来する親魚から卵を採り、ふ化場で育てた稚魚やスモルトを元の流域へ戻す。目的は漁業用の大量放流ではなく、地域固有の遺伝的多様性と産卵個体を失わないことである。 | 米国のメイン湾個体群では、保全ふ化場が回復計画の一部として使われている。親魚の組み合わせを遺伝情報に基づいて管理し、近親交配を避けながら、海へ下るスモルトと産卵親魚を増やす取り組みが行われている。 |
| 放流の慎重な運用 | 放流魚は野生魚との競争、人工飼育への適応、遺伝的多様性の低下を招く可能性がある。減少原因がダムや汚染である場合は、放流ではなく原因の除去を優先する。 | 2025年のスコットランドの科学助言では、健全な個体群への放流は原則として推奨されていない。回復放流は、地域個体群が消滅寸前で、減少原因への対策と明確な終了目標を設定できる場合に限る一時的な措置とされている。 |
| 遺伝子バンク | 消滅の危険が高い河川の精子、卵、組織、親魚系統を保存し、地域固有の遺伝形質を将来の再導入に残す。 | 個体群が消滅した後に別河川のサケだけを放流すると、その河川に適応していた遺伝的特徴が失われる。遺伝子バンクは、再導入時に地域由来の遺伝情報を利用できるようにする保険として位置づけられている。 |
| 養殖サケの脱走防止 | 海面養殖施設の網、係留設備、作業手順を改善し、事故や嵐による脱走を防ぐ。脱走が発生した場合は、河川へ入る前の再捕獲、遡上河川での監視、産卵前の除去を行う。 | 養殖魚との交雑は一度起きると後世へ受け継がれるため、脱走後の回収だけでなく、施設から一匹も逃がさないことを目標とした封じ込めと、野生個体群の遺伝子監視が必要とされている。 |
| 養殖由来のサケジラミ対策 | 養殖場周辺でサケジラミの密度を監視し、スモルトの降下時期に感染圧が高くならないよう、生産量、養殖場所、休養期間、寄生虫対策を管理する。 | NASCOがまとめた2025年の研究では、養殖由来のサケジラミにさらされた野生サケで、生存率と成魚の回帰数が低下することが示された。影響はノルウェー、アイルランド、スコットランドなどで確認されている。 |
| 疾病の監視と防疫 | 養殖場、ふ化場、河川間で病原体を運ばないよう、魚や器具の移動管理、消毒、健康検査を行う。感染河川では移動制限や根絶計画が実施されることもある。 | 病原体を持つ魚の放流や、感染水域で使用した釣具・作業器具の移動は、別の河川へ病気を広げる可能性があるため、国境を越えた監視と情報共有が行われている。 |
| 個体数と回遊の監視 | 魚類カウンター、捕獲施設、産卵床調査、電気漁具による幼魚調査、標識、音響・衛星タグ、鱗の年齢解析、遺伝子分析などを組み合わせる。 | 海へ下ったスモルト数と、成魚として戻った数を比較することで、河川、河口、沿岸、外洋のどこで生存率が下がっているかを調べる。得られた結果は漁獲規制、ダム対策、放流量の見直しに使われる。 |
| 先住民・地域団体との共同管理 | 行政機関、研究者、土地所有者、漁業者、釣り人、先住民、河川保全団体が共同で流域を管理する。地域住民による産卵魚や稚魚の観察、河畔林の植樹、障害物の撤去、教育活動も含まれる。 | 米国のメイン湾個体群では、NOAA、米国魚類野生生物局、メイン州、ペノブスコット・ネーションなどが共同管理を行っている。河川全体の回復には、発電、農業、道路、治水、漁業を担当する組織間の調整が欠かせない。 |
| 順応的管理 | 対策を実施して終わりにせず、親魚数、スモルト数、産卵床、遺伝的多様性、生息地面積などを継続的に測定し、効果がみられない場合は方法を変更または中止する。 | ダム撤去、魚道、放流、キャッチ・アンド・リリースなどは、条件によって効果が異なる。事前に数値目標と期限を設定し、検証結果に応じて資金と対策を組み替える方法が重視されている。 |
出典
新潟・三面川のシロザケ減少から考える日本海の高水温
Questioner: This is a different species from Atlantic salmon, but there are chum salmon that return to rivers along the Sea of Japan coast, right? I’ve been really worried about all the recent talk about rising sea temperatures in the Sea of Japan.
Me: Observations by the Japan Meteorological Agency show that sea surface temperatures in the Sea of Japan have remained at record-high levels for some time now. Off the coast of Niigata, where I live, the water temperature has risen by about 2.01°C over the past century. The Sea of Japan as a whole is warming at an exceptionally fast rate, even by global standards.
Questioner: They like cold water, so they’re born in rivers in Niigata. There isn’t enough food for them to grow big there, so they head out to sea, and then they come back to those cold rivers, right? But if the sea just offshore is too warm when they return, couldn’t they lose their way—or even reach a point where they can’t survive there at all?
Me: I’ll look into it—not only the recent rise in sea temperatures in the Sea of Japan, but also whether the rivers themselves are warming, and whether anything similar is happening in the waters inhabited by Atlantic salmon.
質問者:タイセイヨウサケとは別の種になるんだけど、日本海側の川に帰ってくるシロザケがいるじゃないですか。最近話題に出ている日本海の海水温の上昇がものすごく気になってます。
私:気象庁の観測でも、日本海の海面水温は記録的な高温状態がここしばらく続いています。特に私の暮らしている新潟県沖では過去100年間で約2.01℃も水温が上昇しており、日本海全体の上昇ペースは世界的にも非常に速いのが現状です。
質問者:冷たい水を好むから新潟の川で生まれて、そこで暮らすには食料が少ないから海で大きくなって、そしてまた冷たい川に戻りたいんだよね。これ戻ってきてもその手前の海が高水温だと道がわからなくなったり、その場所で生きていられなくなったりしないのかな。
私:近年の日本海の海水温上昇はもちろん川の水温上昇などもないか、タイセイヨウサケと重なる海で起きている現象などないか、調べてみます。
日本海の高水温は、新潟へ帰るシロザケに何を起こすのか
冷たい川へ帰るはずのシロザケ。その手前に広がる日本海が、世界平均を上回る速さで暖まり続けています。高水温は母川までの道を分からなくさせるのか。それとも河口の手前で待たせ、体力を奪っているのか。新潟のシロザケを入り口に、海と川の両方で進む変化をたどります。
1. 現在の状態
1-1. 日本海は一時的ではなく、長期的に急速な高水温化が進んでいる
新潟県沖を含む日本海中部では、長期的な海面水温の上昇幅が100年当たり約2.01℃に達している。これは2024年までの観測に基づく値で、日本近海平均の約1.33℃、世界平均の約0.62℃を大きく上回る。日本海の高水温は、暑い年だけに現れる一時的な現象ではなく、地球温暖化による長期上昇に、季節風や海流などの自然変動が重なって進行している。
2026年8月下旬にも、気象庁は日本海北部の広い範囲で海面水温が「平年よりかなり高い」状態が続き、日本海南部ではその範囲が拡大したと発表している。ここでいう「かなり高い」は、1991~2020年の同時期の水温と比べて上位10%に入る高温を意味する。さらに、日本海では9月にかけても平年よりかなり高い状態が予想されている。
ただし、8月の高水温だけで、その年の秋に帰るシロザケが死滅すると決まるわけではない。実際に河川へ入る時期は秋から初冬であり、沿岸水温がどの程度、どの速さで低下するかが重要になる。問題は、秋になっても表層の高水温が残る「冷え遅れ」が起きると、河口への接近や河川進入の時期が後ろへずれる可能性があることである。
1-2. 日本のシロザケ来遊数は、2025年に記録的な低水準となった
日本のシロザケ資源は、すでに深刻な減少局面に入っている。水産研究・教育機構の2025年シーズン速報では、全国の来遊数は693万尾で、1989年以降の最低値となった。本州日本海側は4万1,100尾にとどまり、前年の33%、平年の5.8%だった。
この「来遊数」は、海面で漁獲された数と河川で捕獲された数の合計である。したがって、単に漁の方法や河川への入り方が変化しただけでは説明しにくく、日本へ帰ってきた成魚そのものが少なかったことを示している。
新潟県内でも減少は顕著である。村上市の三面川では2019年に3万尾近くが漁獲されたのに対し、2024年度は約5,500尾、2025年度は約1,400尾まで減少したと報告されている。親魚不足は採卵数の減少につながり、その結果、次世代の放流数も減る。海洋生存率の低下が親魚不足を招き、親魚不足が数年後の回帰数をさらに押し下げるという悪循環が生じ始めている。
もっとも、2025年に帰ってきた成魚の減少を、2025年秋の高水温だけで説明することはできない。シロザケの多くは3~5年を海で過ごすため、その年の来遊数には、数年前の降海時の沿岸環境、その後のオホーツク海、ベーリング海、北太平洋での餌環境や海洋熱波などが累積して反映される。
2. 新潟のシロザケが利用する海
2-1. シロザケが数年間成長する主な場所は、日本海ではなく北洋である
新潟の川から海へ出たシロザケの稚魚は、日本海だけで数年間生活するわけではない。春に降海すると、しばらく河口や浅い沿岸域で成長し、その後、対馬暖流などを利用しながら日本海を北上してオホーツク海へ向かう。最初の冬は北太平洋西部で過ごし、その後はベーリング海などを主要な索餌海域として成長する。
産卵年になると北洋から日本周辺へ戻り、本州日本海側の個体は北海道沿岸を通過して日本海を南下し、新潟などの母川を目指す。日本海は、稚魚にとっては北洋へ向かう「出口」、成魚にとっては母川へ帰る「最後の通路」である。
このため、日本海の高水温は生活期間全体に影響するというより、海へ出た直後と産卵のために戻る直前という、生残と繁殖を左右する二つの重要な段階に集中して作用する。
2-2. 日本海側では、稚魚が海へ出られる適温期間がもともと短い
本州日本海側のシロザケ稚魚は、おおむね7~13℃の沿岸水温を利用して成長するとされる。ところが日本海側では、春になると対馬暖流の影響で同緯度の太平洋側より早く水温が上昇する。そのため、稚魚が河川から海へ出て、沿岸で餌を食べながら成長できる期間が短い。
過去の研究では、新潟地区の放流時期は3月下旬が一つの限界とされ、それより遅く海へ出た稚魚は、沿岸が適水温を超える前に十分な大きさまで成長できない可能性が指摘されている。温暖化によって春の昇温がさらに早まれば、適水温の期間は一層短くなる。
水温の問題は、単純な熱による死亡だけではない。高水温になると魚の代謝が速まり、必要な餌の量が増える。一方で、海流や海の成層化が変わると、稚魚が食べる動物プランクトンの量や発生時期も変化する。餌が少ないのに代謝だけが高くなれば、成長が遅れ、捕食されやすい小さな状態が長く続く。
3. 高水温で母川への道が分からなくなるのか
3-1. 高水温が母川の記憶を直接消すという証拠はない
現在の研究からは、暖かい海水に触れたことで、シロザケが母川の場所を完全に忘れるとは考えにくい。サケ類は稚魚期に母川固有のにおいを記憶し、成魚になるとその記憶を使って母川を識別する。外洋では地磁気、太陽、海流など複数の手掛かりを利用し、母川の近くまで来ると嗅覚の重要性が高まると考えられている。
したがって、高水温による主な問題は「記憶の消失」ではなく、記憶したにおいを探すために必要な行動が取りにくくなることである。
3-2. 暖かい表層を避けると、河川水の手掛かりを探しにくくなる
回帰中のシロザケは、沿岸表層が暖かいと、より冷たい深い層へ潜って体温と代謝を調節する。一方、河川から海へ流れ出した水は淡水で密度が低いため、主に海面近くに広がる。母川のにおいを確かめるには、シロザケは暖かい表層へ繰り返し上がらなければならない。
三陸沿岸で行われた追跡研究では、シロザケが河川水の広がる方向に沿って湾内を移動することが確認されている。また、高水温時のシロザケは冷たい深層へ退避しながら、方向を確認するように表層へ浮上する行動を繰り返す。
このことから、高水温の海はサケを完全に迷わせるというより、冷たい場所への退避と河川の探索を交互に行わせ、母川へ到達するまでの経路を長くしたり、河口付近での滞在を長引かせたりする可能性が高い。移動に時間がかかれば、産卵に使うはずだった体内の脂肪や筋肉が余計に消費される。
3-3. 河川流量の減少も母川探索を難しくする可能性がある
母川のにおいは、河川水の流れによって海へ運ばれる。渇水や取水によって流量が少なくなると、河口から広がる淡水の範囲や濃度構造が変化し、沿岸を回遊するサケが河川水を見つけにくくなる可能性がある。
新潟では積雪が重要な水源になっているため、冬の降雪量や春の雪解け時期の変化は河川流量にも影響する。海面水温だけでなく、河口流量、塩分、海面付近の河川水の広がりを同時に調べなければ、サケが河口へ接近できなかったのか、接近後に進入を待っていたのかを区別できない。
4. 河口から川へ入る段階への影響
4-1. 高水温では、河川への進入が遅れたり短期間に集中したりする
高水温が続くと、シロザケは沿岸や河口で水温が下がるのを待つことがある。北東アジアの分布南限に近い韓国沿岸の研究では、沿岸水温が20℃を下回るころから河川進入が始まり、18℃未満になると進入数が大きく増加し、12℃未満になるころには回遊が終盤に入る傾向が示された。
これらの温度はすべての河川に共通する絶対的な境界ではない。早い時期に回帰する群と遅い群では高温への適応力が異なり、河川ごとの遺伝的・生理的な違いもある。それでも、秋の冷却時期が回帰の開始と集中度を左右するという関係は明瞭である。
秋になっても日本海沿岸が冷えなければ、サケが河口沖で待機する、深い層を通過する、河川進入が遅れるといった変化が起こり得る。逆に急激に冷えると、遡上が短期間に集中する可能性がある。漁獲日や河川捕獲数だけを見ると「今年はサケが来ない」と見える時期でも、実際には深い場所で待機している場合がある。
4-2. 遅れが長引けば、産卵場所へ到達できない個体が増える
成熟したシロザケは、河川へ戻る段階ではほとんど餌を取らず、海で蓄えたエネルギーを使って泳ぎ、成熟し、産卵する。高水温では基礎代謝が上がるため、同じ距離を移動してもエネルギー消費が増える。
河口での待機、高温区間の回避、魚道や堰での遅延が重なると、上流の産卵場へ到達する前に体力を失う可能性が高まる。シロザケは原則として一度産卵すると死亡するため、その年の遡上に失敗した個体が翌年に繁殖をやり直すことはできない。この点は、複数回産卵する個体がいるタイセイヨウサケよりも厳しい条件である。
5. 川の水温上昇が及ぼす影響
5-1. 川の高水温は、成魚、卵、稚魚のすべてに連鎖的に作用する
新潟県内の各サケ河川について、海面水温と同じ精度で長期間を比較できる河川水温資料は限られている。しかし一般に河川水温は気温の影響を受け、流量が少ない川、日陰の少ない川、浅く単調な川ほど高温になりやすい。一方、地下水や湧水、森林の日陰、深い淵がある場所では、周囲より低い水温が保たれる。
高い河川水温は遡上中の成魚の代謝を上げ、溶存酸素を減らす。低流量と重なると休息できる深場も減り、産卵場へ到達する前の死亡リスクが高まる。
産卵後も影響は続く。水温が高いと卵の発生が速くなり、ふ化や浮上の時期が早まる。稚魚が早く海へ出ても、沿岸の動物プランクトンがまだ十分に増えていなければ、餌の少ない時期に降海することになる。反対に、ふ化場で稚魚を一定の大きさまで育てている間に沿岸が急速に暖まれば、放流時には適水温期間が終わっている可能性がある。
5-2. 豪雨も渇水も産卵環境を悪化させる
温暖化は平均水温だけでなく、極端な降雨や少雨の影響も強める。豪雨では産卵床が流されたり、細かい土砂が礫の隙間を埋めて卵への酸素供給を妨げたりする。渇水では産卵床が浅くなり、水温上昇や酸素不足が起こりやすい。
三面川では、2022年の新潟県北部豪雨による支流・高根川の被害も、近年の生産低下に関係する可能性が指摘されている。海洋環境だけでなく、産卵河川の被災、親魚不足、採卵数の減少が同時に進んでいる点が、現在の危機を複雑にしている。
6. 北洋の温暖化と餌不足
6-1. 日本海沿岸の直接的な暑さ以上に、北洋の餌環境が資源量を左右する場合がある
シロザケの減少は、水温による直接死だけでは説明できない。利根川のシロザケを対象とした研究では、海流と致死水温を組み込んだシミュレーションだけでは個体数減少を再現できず、初期海洋生活期の動物プランクトン量が個体群の増減を最もよく説明した。
温暖化によって海の表層と深層が混ざりにくくなると、深層の栄養塩が表層へ供給されにくくなり、植物プランクトンから動物プランクトンへ続く食物網が変化する。サケにとっては、水温が生存可能な範囲でも、必要な餌を得られなければ成長できない。
成長が悪い稚魚は捕食を受けやすく、成魚になっても小型化しやすい。雌の体が小さくなれば、一般に産める卵の数や卵に配分できる栄養も減るため、影響は次世代へ持ち越される。
6-2. ベーリング海などの好適生息域も縮小・北上している
1998~2022年の北太平洋を解析した2025年の研究では、温暖化、海洋熱波、生産性の低下に伴い、シロザケの好適な海洋生息域が全体として縮小・移動していた。日本系シロザケが利用するベーリング海中央部では、夏と秋の好適な索餌環境の減少が顕著だった。
好適域が北へ移れば、日本生まれのサケは餌場までより長い距離を移動しなければならない。限られた適水温域に複数のサケ類が集まれば、餌をめぐる競争も強まる。特に北太平洋で非常に多いカラフトマスとの競争は、シロザケの成長や体の状態を悪化させる要因になり得る。
7. タイセイヨウサケと共通する現象
7-1. 二つの種が直面する気候変動の仕組みはよく似ている
シロザケとタイセイヨウサケが利用する海は、それぞれ北太平洋と北大西洋であり、通常の自然分布では同じ海域を回遊するわけではない。しかし、両海域で起きている現象には多くの共通点がある。
両種とも、河川から海へ移る時期と、海から河川へ戻る時期が水温や流量に強く左右される。河川の昇温、春の早期化、沿岸の冷却の遅れ、低流量、海洋熱波、餌生物の分布変化などが、生活史のタイミングをずらしている。
また、暖かい河川では代謝負担が増え、冷水域への退避、遡上の停止、魚道やダム付近での滞留が起こりやすい。海では、温暖化によって餌場が移動し、海洋生活初期の生残率が低下する。これは北大西洋のタイセイヨウサケで問題になっている海洋生残率の低下と、日本系シロザケの回帰率低下に共通する構造である。
7-2. シロザケは、降海直後の沿岸環境に特に強く依存する
両種には重要な違いもある。タイセイヨウサケの幼魚は通常、河川で1年以上成長してからスモルトとなって海へ下る。一方、シロザケはふ化後の早い段階で海へ出て、浅い沿岸域を成育場として利用する。
そのため、シロザケでは春の沿岸水温と動物プランクトンの発生時期が直接、生残率を左右しやすい。日本海側のように春の昇温が速い地域では、この弱点が特に大きくなる。
さらに、タイセイヨウサケには産卵後に生き残って再び海へ戻る個体がいるのに対し、シロザケは産卵後に死亡する。一度の帰還に失敗したときの繁殖上の損失は、シロザケの方が決定的である。
8. 今後調べるべき点と対策
8-1. 海面水温だけではなく、海底近くまで含めた立体的な観測が必要である
シロザケが実際に通過できるかを判断するには、海面水温だけでは不十分である。表面が暖かくても、深い場所に連続した冷水層があれば、サケはそこを通路や一時的な避難場所として利用できる。反対に、暖水が深い層まで達すれば、逃げ場そのものが失われる。
新潟沿岸で特に必要なのは、秋の海面水温だけでなく、深さ別水温、河口流量、塩分、河川水の広がり、成魚の遊泳深度と滞留日数を組み合わせた観測である。河川捕獲数だけでは、「沿岸まで来なかった」「沖合や深層で待機した」「河口を発見できなかった」「川へ入った後に死亡した」を区別できない。
8-2. 放流日は暦ではなく、その年の水温と餌環境に合わせる必要がある
稚魚放流では、例年と同じ日に放すだけでは、急速に変化する沿岸環境に対応できない。河川水温、沿岸水温、稚魚の大きさ、動物プランクトンの発生状況を観測し、その年ごとに放流時期を調整する必要がある。
ただし、早く放流すれば必ず成功するわけではない。小さすぎる稚魚は遊泳力や捕食回避能力が不足する。ふ化場で長く育てれば体は大きくなるが、その間に沿岸の適水温期間が終了する。この「十分な大きさ」と「海が暖まる前」という二つの条件を両立させることが、温暖化下のふ化放流事業の中心課題になる。
8-3. 河川に残る冷水域を守ることが、海洋温暖化への備えにもなる
海そのものを地域だけで冷やすことはできないが、河川環境には改善できる余地がある。河畔林による日陰、湧水や地下水が流れ込む場所、深い淵、支流との接続、流れの緩い休息場所を保全すれば、遡上中の成魚や卵に冷水の避難場所を提供できる。
ダムや堰の魚道改善、必要な河川流量の確保、産卵床への土砂流入の抑制も、高水温による負担を軽減する。温暖化以外の障害を減らすことで、サケが気候変動に耐えるために使える余力を残すという考え方である。
9. 総合的な見方
日本海の高水温によってシロザケが突然母川を忘れるというより、冷たい深層への退避、河口進入の遅れ、河川水の探索時間の増加、エネルギー消耗、餌不足が重なり、母川や産卵場まで到達できる個体が減る可能性の方が高い。
新潟のシロザケにとって、日本海の昇温は遠い将来の問題ではない。本州日本海側の来遊数はすでに記録的な低水準にあり、三面川では親魚不足が次世代の放流数にも及んでいる。ただし、減少の原因は日本海の秋の高水温だけではなく、春の降海環境、北洋の餌不足と海洋熱波、河川の水温・流量、豪雨被害、親魚と放流数の減少が連続して作用した結果と考える必要がある。
出典
- 2026年8月下旬の日本海の高水温:気象庁「日本近海の海面水温」
- 日本海中部の100年当たり2.01℃の上昇:水産庁「我が国近海等での海洋環境の変化」
- 2025年の全国・本州日本海側の来遊数:水産研究・教育機構「2025年さけます来遊状況」
- 三面川における2025年度の漁獲量と放流数:BSN新潟放送「漁獲量激減で『鮭のまち』が歴史的危機」
- 本州日本海側の稚魚の適水温と北洋への回遊:水産研究・教育機構「本州日本海に回帰するサケの旅」
- 高水温下での深層退避と表層への浮上行動:Journal of Experimental Biology「Behavioural Thermoregulation of Chum Salmon During Homing Migration」
- 河川水の広がりと母川探索行動:PubMed「Spreading of River Water Guides Migratory Behavior of Homing Chum Salmon」
- 沿岸水温とシロザケの到着・河川進入時期:PLOS ONE「Temporal Distribution Shifts of Chum Salmon with Sea Surface Temperature Changes」
- 北太平洋における好適生息域の縮小:Scientific Reports「Climate-driven Shifts in Marine Habitat Explain Recent Declines of Japanese Chum Salmon」
- 水温より餌不足が主要因となった利根川の事例:JAMSTEC「気候変動下で利根川からサケが消えたのはなぜか?」
- 放流適期の短縮予測と適応策:気候変動適応情報プラットフォーム「海水温の上昇等によるシロザケ等の漁獲量への影響に関する調査」
- タイセイヨウサケに共通する河川昇温・回遊時期への影響:NOAA「A Synthesis of US Atlantic Salmon Habitat Requirements and Implications for Future Suitability under a Changing Climate」
Questioner: “In the Miomote River in Murakami City, nearly 30,000 chum salmon were caught in 2019. But that fell to about 5,500 in fiscal 2024, and then to around 1,400 in fiscal 2025.” I know there are probably all kinds of factors involved, but it’s hard not to see this as an effect of the global warming we’ve caused.
Me: I recently saw a color-coded world map showing how sea temperatures could rise under the influence of El Niño, and I was shocked to see the Sea of Japan coast marked in red. It compared 1982, 1997, 2015, and this year, 2026. By 2026, the area had turned so intensely red that it was honestly frightening.
Questioner: No matter how powerful it gets, El Niño is still a natural phenomenon. But global warming is something we caused. That makes me feel like this is the part we can still do something about, if we start taking action now.
Me: That’s true. But the ocean won’t quickly release all the heat it has absorbed over the years. Even if we cut greenhouse gas emissions, the Sea of Japan won’t return to its old temperatures next year.
That doesn’t mean taking action is pointless. Extreme marine heat becomes more likely when a natural fluctuation like El Niño occurs on top of an ocean that global warming has already made hotter. If we reduce emissions now, we can at least slow the rate at which that warmer baseline keeps rising.
At the same time, local measures can preserve some room for chum salmon to survive. These could include protecting riverside forests and spring-fed habitats, maintaining enough water in rivers, and adjusting the timing of juvenile salmon releases to match changing sea temperatures.
Questioner: So even if we can’t bring the old sea back right away, we can still stop it from becoming a sea the salmon can no longer return through. If we do nothing, then every time El Niño comes around, sea temperatures will jump from an even higher starting point than before.
Me: Exactly. And this isn’t happening only to chum salmon in the Sea of Japan.
In the North Atlantic, Atlantic salmon are also making their way back to their home rivers through warming seas, estuaries that no longer cool as they once did, and rivers where both temperature and flow are changing.
They swim in different seas and belong to different species. But for salmon that have always depended on cold water, both the time and the pathways they need to make it home are slowly being taken away.
The Atlantic salmon at the heart of this story are caught in that same crisis.
Thank you for giving this some of your precious time.
I hope the care behind these words somehow reaches the Atlantic salmon.
鶏人|Keijin
質問者:「村上市の三面川では2019年に3万尾近くが漁獲されたのに対し、2024年度は約5,500尾、2025年度は約1,400尾まで減少したと報告されている」って、いろいろな要因があるんだろうけど、僕たちが招いた地球温暖化の影響としか思えない。
私:最近発表されたエルニーニョの影響で今後起こり得る海水温の上昇を色分けした世界地図を見たのですが、日本海側が赤く塗られていたことに驚きました。それも、1982年、1997年、2015年と今年2026年を並べて表示してあったのですが、怖くなるほど赤く染まっていました。
質問者:いくら大きくてもエルニーニョは自然現象だけど、地球温暖化は僕たちが招いたんだから、こっちは対策を考えれば今からならなんとかなりそうな気もするけどな。
私:そうですね。ただ、海はこれまで吸収してきた熱をすぐには手放してくれません。温室効果ガスの排出を減らしても、来年から日本海が昔の水温へ戻るわけではないんです。それでも、対策に意味がないわけではありません。エルニーニョという自然の揺れが、地球温暖化で底上げされた海に重なるから、これほど極端な高温になりやすい。今から排出を減らせば、その土台がさらに高くなっていく速度を抑えられます。同時に、河畔林や湧水地を守り、川の流量を確保し、海水温に合わせて稚魚の放流時期を変えるなど、シロザケが生き残れる余地を地域に残すこともできます。
質問者:昔の海へすぐ戻すことはできなくても、これ以上サケたちが帰れない海にしないことはできるってことだね。僕たちが何もしなければ、エルニーニョが来るたびに、前より高い場所から海水温が跳ね上がることになるもんね。
私:そういうことです。そして、それは日本海のシロザケだけに起きている話ではありません。北大西洋でも、暖まる海、冷えにくくなった河口、水温と流量が変わる川を越えて、タイセイヨウサケが母川へ帰っています。泳ぐ海も種も違いますが、冷たい水を頼りに生きてきたサケたちから、帰るための時間と道が少しずつ奪われている。その同じ危機の中に、今回のタイセイヨウサケもいます。
貴重な時間を、ありがとうございました。
タイセイヨウサケに、その想いが届くことを祈ります。
鶏人|Keijin
【お知らせ】
この記事の要約版は「note」でも配信しています。
サクッと概要だけ振り返りたい方や、noteをご利用の方は、ぜひそちらもフォロー&チェックしてみてくださいね。
⬇︎お待ちしております。⬇︎





コメント